きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

Epilogue1. 晩鐘

 寂しい鐘の音が、海風にかき消される。どんなに力を込めても、この鐘の音はベルイールまで届かないだろう。
 ひとしきり鳴らすと、修道士は礼拝堂へ赴き、日課の祈りを捧げた。今日もまた決まりきった一日が過ぎてゆく。ただ一つ違うのは、祈りを捧げる者がたった一人という事実のみ。
 負傷兵の看護役として、王の勅命で近隣の修道院から修道士や尼僧が駆り出された。この寂れた修道院も例外ではなく、ほとんどの修道士が出払い、今は院長を務める彼一人しかいない。ここ数日、居残った彼は一人で院内を拭き清め、時を告げる鐘を鳴らし、一心に祈りを捧げている。
 周辺に住む者は、戦いに巻き込まれることを恐れて逃げてしまった。居残った者たちも、必要以上に外へ出てこない。物寂しい光景は、修道士にとって懐かしくも忌まわしい祖国を思い起こさせた。

 静謐な空気を破ったのは一人の訪問者だった。
「久しぶりね」
「来ると思っていたよ、ミレディー」
 ひどく汚れた身なりだったが、彼女は変わらず美しかった。
「私だけじゃないの」
 ミレディーの背後に、やけに不格好な馬がいた。まるでロバのようだ。黄色い毛並みに茶褐色のまだら模様が散っていて、小さい体躯の割に太く短い足。背中にはボロボロの荷をぶら下げている。
「……?」
 荷物ではない。あれはまさか。
「人なのか?!」
 馬に駆け寄る。確かに人間だ。乾ききった髪をかき分けると、土気色の顔だちが露になった。
(しかも男)
 男というにはあまりに若い少年である。意識はなく、一目見ただけでは、人かどうか迷うほど酷い風貌をしている。
「ひとまず中へ」
 ほとんど人気がないとはいえ、用心に越した事はない。誰かに見られる前に、馬ごと修道院の敷地へ招き入れた。馬は馬上の少年を気遣うように、ゆっくりついて来た。見た目に反して、利口な馬のようだ。
「君は大丈夫か?」
 ミレディーの白い顔は煤と埃にまみれていた。身につけているドレスも相当傷んでいる。
「大したことないわ。それより彼はどうなの」
「ああ、見てみよう」
 慎重に馬から下ろして、毛布の上に寝かせた。あちこち皮膚が裂け、擦過傷から血がにじんでいる。打ち身もあるようで、内出血によるアザと腫れ物で全身がでこぼこと節くれ立っていた。まさに虫の息だ。
「助かるかしら。血止めの薬草なら使ったけれど」
 よく見ると、傷口のところどころが緑色を帯びている。薬草を擦り付けた跡だ。
「失血死は免れたようだね」
 ミレディーの表情が微かに和らいだ。彼女が他人の生死を気にかけるなど、珍しいことだ。
「だが、応急処置に過ぎないな」
「どうにかならない?」
「君は頭のいい女性だよ。しかし所詮は民間療法だ。本物には敵わない」
「本物?」
 修道士は口をつぐんだ。ちらりと瀕死の少年を見る。
「その子の格好……銃士だろう? なぜ敵を助ける? それとも君の手駒のスパイの一人なのか?」
「まさか」
 ミレディーは一笑に付した。
「だろうね。スパイが務まるほど賢そうに見えない」
「あら、これでも機転がきく子よ」
 敵側の銃士だと認めておきながら、妙に肩を持つ。彼は何者だろうか。
「そうね。あなたの言う通り、彼は銃士だわ」
 まだ見習いだけど、とミレディーは付け足した。
「でも彼は…ダルタニャンは私の命の恩人よ。一度目は処刑に見せかけて逃がしてくれた。そして今度は二回目」
「ベルイールで何があった?」
 ミレディーは答えなかった。再び少年に視線を移す。こんな傷を負ってまで敵のミレディーを助けたということは、彼もまたミレディーに心を奪われているのだろうか。しかし、心を奪われているのは少年よりもむしろ――
 ミレディーの横顔を見たが、感情は読み取れない。修道士は静かにため息をついた。
「我々には荷が重すぎる。しかし、本物の医者ならあるいは」
「本物の医者ね」
「その辺のヤブ医者では手に負えないだろう。王侯貴族に仕えるような腕のいい医者でなければ」
「王妃に連絡を取ってちょうだい」
「どちらの?」
 ベルイールはフランス西部に突き出た半島の先に位置している。いざとなれば、海上を南下してミレディーをスペインへ逃がす算段だった。既に段取りは整っている。しかし、修道士はあえて尋ねた。
 つかの間の沈黙の後、ミレディーが告げたのは意外にも、スペイン王女にして現フランス王妃アンヌ・ドートリッシュの名だった。



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プチあとがき


エピローグ、二つに分けました。
書いてる途中、ふと思いついて登場人物を変更したら(謎の修道士さん。捏造キャラではありません)あれよあれよと長文化してしまいました。計画性がないのはいつもの事とはいえ、この期に及んで引っ張ってスミマセン。

みんな大好き★ミレディー姐さん登場です。
ラストを飾るのは、やっぱりこの方しかいませんよね~。

それから、拍手&コメントもありがとうございます。
連投でも長文でもなんのその!(恐悦至極) 感想いただけてめちゃめちゃ嬉しいです///。お返事は後ほどあらためて…

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Date:2011/02/12
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