きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

17. 望みのままに

 銃士隊詰め所を兼ねたトレビル邸の執務室に、三銃士はそろって呼び出された。
 先日の騒ぎの件で咎められると考えたポルトスとアラミスは、朝から口裏合わせに余念がない。こういう時こそ、知恵者アトスの真価が発揮される絶好の機会なのだが、今日のアトスは充血した目をしばたたくばかりで役に立ちそうにない。結局「あれは剣を抜いてないから決闘ではない」とお決まりの口上を考えていたが、三人を執務室へ招き入れたトレビルは、意外なことに大層機嫌が良かった。
「近々、ベルイール戦の功労者を称える凱旋式典が行われる。わしは、決死隊として見事に役目を果たしたお前たち三人を推薦した。国王陛下はもとより、あのリシュリューまでもが異論はないと賛同したぞ」
 三人は顔を見合わせた。
「銃士隊長として、わしも鼻が高い」
 トレビルは相好を崩した。
「式典では各自に褒美が与えられる。何でも望みのままだそうだ。当日までによく考えておくように」
 ベルイール以来、ダルタニャンのことばかり考えていて、三人は自分たちの功績などすっかり忘れていた。本来なら名誉なことであるのに、褒美や望みと言われても実感が湧かない。
 しかしアトスは違った。
「私の望みは既に決まっています」
 目が赤く潤んでいるのは、毎夜あおる酒のせいだけではないだろう。だが、口調はしっかりしている。
「ほう。申してみよ」
「私は銃士を辞める所存です」
 きっぱりと言い放った。
「なんと!」
 トレビルが目を見開いた。隣にいたポルトスは呆気にとられたが、冗談ではないと悟るとアトスの肩をぐいっと捕らえた。
「突然何を言い出すかと思えば!」
「前から考えていたことだ。ちょうど良い機会だと思ったまで」
「考え直せ!」
 喚きながら、掴んだアトスの肩を激しく揺さぶる。ポルトスの凄まじい剣幕に押されたのは、アトスではなくトレビルだった。
「ま、まあ、ポルトス少し落ち着け。…アトス、お前は疲れているんだ。少し頭を冷やせ。そうだ、長めの休暇なら良かろう。なあ」
 トレビルが妥協案を出して宥めたが、アトスは口を引き結んだまま何も言わなかった。
 アラミスはただ立ち尽くしていた。トレビルとポルトスは驚いていたが、アラミスは分かるような気がした。アトスはダルタニャンが死んだのは自分のせいだと思っているのだから。誰に何を言われても、アトスの決意は揺るがないだろう。
「アラミスは何かあるか」
 話題を変えようと、トレビスがアラミスに話を振った。
(望み…か)
 できることなら、ダルタニャンを返して欲しい。だが、それは国王の力を持ってしても叶わぬ願いだ。
「…わかりません」
 アラミスは目を伏せて答えた。
「うむ。ゆっくり考えるといい」
 トレビルは気遣うように優しく目を細めた。
「俺の、いえ、私の望みは…」
 一方、ポルトスが背筋を伸ばして答えた。
「私の望みはアトスが銃士隊に残ることです」
「無理だな」
 アトスが即座に却下した。
「だから、休暇の後で戻ってくればいいって」
「無理」
「だーかーらー」
 二人の不毛な問答に嫌気がさしたのか、トレビルは三銃士に背を向けてしまった。両手を後ろ手に組み、窓ガラス越しに空を見上げる。薄曇りの白い空は、遠くまで見通すのは難しそうだ。
「……ダルタニャンの望みは何だろうな」
 トレビルのつぶやきに反応して、三人がはっと顔を見合わせる。
「えっ…」
「ダルタニャンの…」
「望み…」
 たちまち沈黙が降りる。三人の脳裏にダルタニャンの姿がよみがえる。無謀と紙一重のあの勇気。生還していれば、誰よりも賞賛されて然るべきだった。もし、この場にダルタニャンがいたなら、彼は何を望んだのだろうか――

「銃士…」
 沈黙を破ったのはアラミスだった。トレビルが振り返り、アトスとポルトス、三人の視線がアラミスに注がれる。
「ダルタニャンは銃士になりたがっていました。彼は銃士の身分を剥奪されたままでしたよね」
 確認するように問われ、トレビルは考え込んだ。
「銃士の身分…か」
「いや、陛下やリシュリューがシャトレから解放された後、銃士隊に戻されたんじゃなかったか?」
 ポルトスが口を挟んだ。
「うん、俺覚えてる。あの時、リシュリューまであっさりダルタニャンの復帰を認めたから驚いたんだよな~」
「ああ、そんなことがあったな」
 トレビルはそう言いながら、机上に積まれていた紙束を手早くめくった。一通り目を通すと、険しい表情で首を横に振った。
「だが、正式な辞令はまだ下っていない。あれは口約束に過ぎない」
「そんな……リシュリューの奴め、見直して損したぜ」
「いや、リシュリューの差し金ではない」
 トレビルは珍しくリシュリューをかばった。
「当時はまだ鉄仮面を捜索中であったし、陛下が入れ替わっていた間の政務の混乱もある。他にも色々な案件が滞っているのだ」
「じゃあ、あれだけの働きをしたダルタニャンはどうでもいいと?!」
「口を慎め、ポルトス。何事も優先順位というものがあるのだ」
 事実、リシュリューは私邸にほとんど帰らず、ルーブルの執務室に泊まり込んで政務に当たっている。いくら犬猿の仲と言えども、トレビルは自分の部下の昇進や手柄を優先するように働きかけるほど厚顔無恥ではなかった。
「事情は分かりました」
 一時的とはいえ、銃士隊長として働いていたアラミスは、地味な公務に対する理解が早かった。
「承知の上で、あえて進言します」
「うむ、何だ」
「先ほどの件です。私の望みはダルタニャンの名誉回復、すなわち銃士隊復職です」
「ダルタニャンの復職を個人の望みにすると言うのか?!」
「はい。私が望む褒美という名目ならば、式典までに間に合うよう取り計らってもらえますよね?」
 探るようにトレビルを覗き込む。死者に褒美など意味はないかもしれない。だが、アラミスは毅然と訴えた。
「私からもお願いします!」
 ずっと黙っていたアトスにも覇気が戻った。
「できれば、見習いではなく正式な銃士として名を残せないでしょうか」
 その言葉には力がこもっていた。
「俺からも是非!」
 ポルトスも精一杯後押しする。三人に詰め寄られたトレビルは、眉間に深く皺を刻みながらうなずいた。
「お前たちの気持ちは分かった。善処しよう」
 三人の間に張りつめていた緊張が解けて、安堵した空気が広がる。ダルタニャンへ褒美を与えることに、誰も異存などあるはずがない。それが、生き残った者たちに出来るせめてもの手向けなのだから。



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プチあとがき

また予告サブタイトル変えました。正確にはエピソード並べ替えただけです。今回と前回も、逆の方が良かったかもしれないな(後の祭り)

みんな色々なこと言ってますが、ダルタニャンの望みは「象さん」です!
とは言え、この場でアラミスが「象だ…(真顔)」とか言い出してもギャグになってしまいますがw

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Date:2010/12/19
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