きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

18. 始まりの情景

 ルーブル宮殿から離れると、ポンヌフを中心に市場が広がっている。広場では大道芸や見世物が繰り広げられ、パリ市民の目を楽しませている。
 勤めを終えて城を辞したコンスタンスは、広場に差し掛かると足を止めた。王都で生まれ育った者には見慣れた光景だ。こんなに明るくて賑やかなのに、遠くの出来事のような気がしてならないのは、暗い部屋に引きこもっていたせいだろうか。現実感を取り戻したくて、コンスタンスは市場のざわめきに耳を傾けた。
「コンスタンスじゃないか」
 ふいに名を呼ばれて辺りを見回すと、人波をかき分けて三銃士が現れた。声をかけたのは、三人の中でも容姿が一際目を引くアラミスである。
「えっと…体調の方はもういいのかい?」
 小走りで駆け寄りながら、アラミスがはっと気づいたように周りに目を配ったことに、コンスタンスは気付いた。理由は分からなかったが。
「おかげさまで。今日はお城に顔を出して、王妃様にお目通りもしました」
 コンスタンスはできるだけ自然に見えるよう笑みを作って答えた。体を気遣われて、半日で帰されたことは言わない方が良いだろう。
「そうか。それは良かった」
 アラミスは嬉しそうに目尻を下げた。いつも凛々しく引き締まっている眉根が緩み、柔らかな弧を描く。
 ボナシュー家の身内とアンヌ王妃を除けば、おそらく一番心配かけた人だ。コンスタンスは、今さらながら申し訳ない気持ちになる。
「あの、先日は…」
「ほんと良かったなあ」
 二人の間に、にゅっとポルトスが首を突っ込んできた。
「アラミスがずっと君のこと気にかけててさ。コイツがこんなに心配性だとは思わなかったよ。でも、アラミスくらいマメじゃないと、女の子にはモテないのかもな~」
 ポルトスに茶々を入れられて、コンスタンスは礼を言いそびれてしまった。どうしようと視線をさまよわせていると、当のアラミスと目が合った。アラミスは呆れたように肩をすくめ、畏まる必要はないと言わんばかりに片目をつぶった。広場の片隅でかすかに黄色い声が上がる。普通の女の子なら天にも昇る気持ちになっただろう。
 ポルトスの後ろから、一足遅れてアトスが現れた。
「あっ…」
 アトスの姿をみとめた途端、コンスタンスの頬がみるみる赤く染まっていった。あからさまな変化に、ポルトスとアラミスが顔を見合わせる。
「あの、アトス様……」
「何か」
 恥じらうようなコンスタンスとは対照的に、アトスの態度は素っ気ない。
(おいおい、これはどういう事だ?)
(人をまるで間男みたいな言い方しておきながら、アトスめ…一体何を?)
 ポルトスとアラミスは探るようにひそひそと耳打ちしたが、互いに思い当たる節はない。
「先日のことで、私…」
「『先日のこと』とは?」
 しどろもどろになるコンスタンスだが、アトスはまるで覚えがないようだ。
(そういえば)
 アラミスの推理が冴え渡る。
(ポルトスの話だと、最近のアトスは正体がなくなるほど酒を飲んでいたらしいじゃないか。まさか、酔いに任せて良からぬことを…?)
 アラミスは鋭くアトスを睨みつけた。
「まさかとは思うが、君はコンスタンスの傷心に付け込んで何かとんでもない事を…」
「……ベ、ベルイールでは酷いことしてスミマセンでしたっ!!」
 コンスタンスはアラミスの声をかき消すように一気に吐き出した。
「……」
 沈黙がおりる。たまたま通りがかった人にまで何事かと視線を注がれて、コンスタンスはますます赤面する。先ほどの大声とは一転して、小声で弁明を始めた。
「覚えてませんか? ベルイールの海で私……私を助けてくれようとしたのに、恥ずかしげもなくあんな事を」
「……ああ、あの時の話か」
 アトスはようやく思い至った。あの日、ベルイールの海で闇雲に暴れるコンスタンスを連れ戻すのは一苦労だった。コンスタンスはそのことを言っているのだ。
 王宮に出入りしているコンスタンスは、平民といえども侍女として恥ずかしくないだけの気品を備えている。年若い娘がそれなりの品格を身につけるには、相応の努力をしたのだろう。立場をわきまえているからこそ、過剰に取り乱したり、ましてやそんな姿を見られることは、顔から火が出るほど恥ずかしいに違いない。
「本当に申し訳ありませんでした」
 コンスタンスは詫びながら、火照る頬を両手で覆った。
「あ、アラミス様も! 長い間ご心配おかけしました」
 ついでのようになってしまったが、アラミスにも詫びを入れた。

「……確かに、アトスに立ち向かうあの度胸は捨て難いものがあったな」
「ふむ、銃士に推薦するか?」
 ポルトスの軽口に、アトスまでがうなずく。
「二人ともいい加減にしろ」
 苦笑しながらアラミスが諌めた。コンスタンスは不本意だろうが、彼女の振る舞いは愛らしいものに感じられた。
(からかいたくなる気持ちは分かるが、程々にしないと)
 改めてコンスタンスに向き直る。
「ところで、君はここで何を?」
 コンスタンスが「ああ」と思い出したように広場に視線を向けた。
「ここで初めてダルタニャンと会ったんだわ、と思い出してました」
 アラミスをはじめ三人が息を詰めたのを察して、コンスタンスは振り返った。
「今日は象はいないみたいですけど」
 くすくすと屈託なく笑った。腫れ物に触るような扱いをされたくなかった。
「それに、ダルタニャンと出会う前、ジャンと会ったのもここなんです」
 ジャンが市場の片隅で売っていた人形を買わなければ、おそらくコンスタンスとダルタニャンが出会うことはなかっただろう。全てはここから始まったのだ。
「そういえば最近ジャンを見かけないな」
 ふと、ポルトスが漏らした。
「はい。ジャンはパリを発ちました」
 コンスタンスはの瞳が微かに瞬いた。



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プチあとがき

長らくお待たせしました。続き再開です。
2010年中に終わらせたいと言っていたのに終わりませんでした。申し訳ありません。
目標変更です。2010年度中に完結させます。

物語中の「銃士に推薦うんぬん」は、りさPにいただいたコンスニャン絵が元ネタです。一応シリアスなノリなので、コンスニャン本体は出せませんでしたが、入隊してもそつなくやっていけそうな気がします。コンスタンスは強い娘(こ)だもの~

それから、いつも書きそびれてしまいますが、拍手やコメントありがとうございます。ぶちゅ~(^3^(いらん!)

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Date:2011/01/23
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