きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

14. それぞれの英雄譚

 アラミスが酒蔵から食堂に戻ると、荒れた店の片隅でポルトスが肉の塊をほおばっていた。騒ぎの最中でも、自分の食卓は死守したらしい。
「おう、ご苦労さん。アトスは?」
「寝てる」
「本当かよ?!」
 アラミスは手近な椅子を起こすと、ポルトスの向かいに腰掛けた。
「すっかり冷めちまってるが、美味いぞ」
 ポルトスが手つかずの皿を一つよこした。
「いや、いらない」
「ちゃんと食べないと後で体に響くぞ」
「そんなことより主人はどうした?」
 先ほどポルトスが酒蔵から強制的に連れ出した店主の姿が見えない。しばらくすると店の出入り口に見慣れた赤い制服が見えた。アラミスは眉をしかめた。
「まずいな。護衛隊だ」
「大丈夫大丈夫。心配すんな」
「心配すんなって……」
 これまでのパターンだと、町中の騒動に銃士が関わっていれば、どんな理由をつけてでも連行するのが護衛隊のやり方だ。ポルトスの楽観的な予想を鵜呑みには出来ず、アラミスは外の様子を注視していた。護衛士たちは、ちらちらと中の様子を窺っていたが、そのまま帰ってしまった。
「な。大丈夫だって言っただろ」
「なんで…」
「ベルイール以来、護衛隊も戦友みたいな関係だからなあ。喧嘩の原因を聞いたら、俺たちに手を出さないだろうと思った」
「どういう事だ」
「鉄仮面がパリの民衆に人気だったのを覚えているか。金持ちから奪った金品を街中にばらまいて、みんな熱狂してただろ。あの義賊まがいの行為には裏があった訳だが、ほとんどの人は事情を知らない」
 それはそうだ。国王がすり替えられて、本物は処刑寸前だったなど、今もなお極秘中の極秘だ。
「国家転覆なんて夢にも思わない人たちにとって、鉄仮面は今でも英雄なんだよ。鉄仮面をやっつけた俺たちは悪者さ」
「悪者…」
「その英雄サマがベルイールで討伐されたと聞いてがっかりしているパリの一般民衆は少なくない。鬱憤ばらしを兼ねてるんだろうが、面白半分に下世話な噂話をしたりもする。ベルイールで戦死した兵士の女がどうたらこうたら…とか」
「!」
 アラミスの顔色が変わった。ポルトスは気付かないのか、淡々と話し続ける。
「特にこういう場所だと、みんな酒が入ってるから噂話に尾ひれがついて大きくなっていく。一般人にとって笑い話でも、俺たちは当事者だからな。聞けたもんじゃない。飯も酒もまずくなる。アラミスが来たら店を変えようと思っていたその時だ。アトスがひと際うるさかった1人を殴ったんだよ」
「アトスが手を出したのか?!」
「あ、俺だと思ってた?」
「う、すまん」
「いいっていいって。…珍しいよなあ。こういう時、感情的に手が出るのは俺の専売特許だと思ってたんだが」
 アラミスの中で引っ掛かっていた疑念が氷解した。酒蔵で投げかけられた辛辣な言葉は、アトスの本心ではなかったのだ。酒の席で聞こえた風評が、たとえアラミスとコンスタンスを指していなかったとしても、アトスには許せなかったのだろう。
「その後は見ての通り」
 ポルトスが首をすくめた。
「戦友…という程ではないが、護衛隊だって共に戦った仲間だからな。騒動の発端を聞いたら俺たち寄りになるだろうと思ってたら」
「予想通りという訳か」
 安堵した反面、今度はむなしさがこみ上げてくる。
「…ダルタニャンは何の為に」
「そうだなあ」
 二人の間に、しんみりした空気が漂う。
「俺たちはフランスと国王陛下の為に戦っている。だけど、それは表向きの理由で、それぞれ訳ありだと思うんだよ」
「わ、訳あり?」
 どきりとして、アラミスは探るようにポルトスを見上げた。
「うん。名誉欲とか」
「ああ、そういうことか」
 アラミスはそっと冷や汗を拭った。今日は心臓に悪い発言ばかり聞かされている気がする。
(まったく。今日は自意識過剰だな)
 そんなアラミスの心の内を知らないまま、ポルトスは話し続ける。
「地位と名声、それに待遇もいいからカネ目当ての奴だっているだろうな。でも良いこと尽くしじゃなくて、戦闘で死ぬ覚悟も持ち合わせているつもりだ」
「もちろん」
「だけど、どんなに覚悟をしていても、本当に仲間がいなくなってしまうと」
「…平静でいられない」
「あのアトスでさえ、あれだけ落ち込んでいるんだ。冗談でも戦友を悪く言われるのは気分悪いよ」
 真相を知らないゆえに無邪気でいられる町の人々。彼らに罪はない。しかし、両者に横たわる深い溝が埋まる日は来るのだろうか。
「ま、鉄仮面が英雄扱いされるのも今だけさ。いずれみんな忘れる」
「でも、僕はダルタニャンのことだけは忘れられそうにないよ」
 アラミスの瞳が揺れた。一瞬の沈黙の後、ポルトスもうなずいた。
「……ああ、俺もだ」
 二人は、帰ってこない四人目に思いを馳せた。



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プチあとがき

ちょっと長くなってしまったので「飲みすぎ食べすぎ」は次回に回します。
冬コミ原稿のおかげで、こっちを書く時間がないので、1話分を分割することで更新を引き延ばす…という意図もあります。期待してた方、スミマセン。でも今回のサブタイもどうかと思います。

前回・前々回の、酒蔵で過去話エピソードでは、原作のまとめサイトさんに随分お世話になりました。この場を借りて、勝手に御礼申し上げます。アニャン氏とエトセトラ様、にしむくさむらい様、銃士倶楽部様、ありがとうございましたー!

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Date:2010/11/16
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