きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

12. 八つ当たり

 傍らでポルトスが盛大にくしゃみをした。アラミスはとっさに袖で口を覆って埃を避けながら、ざっと酒蔵の中を見回した。酒を全部飲み干すと聞いていたので、水浸しになっているのではないかと危惧していたが、埃が舞う程度には乾燥している。僅かにカビ臭いが、存外きれいである。
 アラミスは扉をノックするように手近なワイン樽をコンコンと叩いた。
「やあ、アトス。派手にやったな」
 アラミスはできるだけ明るく声をかけた。その時、一足先に酒蔵に入った店主がぎゃあと悲鳴を上げた。
「これも…これも…すっからかんじゃないか!」
 ワインを貯蔵している樽は、片手でゆするだけでぐらつき、中身の軽さが窺い知れた。
 アラミスはポルトスに目配せすると酒蔵の奥に進み、アトスの隣に腰を下ろした。店主が喚こうがアラミスが隣に座ろうが、アトスは終始無言のままだった。

 アラミスはそっとアトスの顔色をうかがった。しらふのように見えるが瞳はどんよりと淀み、手にはワインの染み付いたゴブレットが握られている。貯蔵樽から直飲みではなく、きちんとゴブレットに注いで飲むとは破天荒なくせに律儀だな、とアラミスは思った。つんと酒の匂いが鼻についた。
「ずいぶん飲んだな。酒臭いぞ」
「……」
「この匂いは明日まで残るだろうなあ。トレビル隊長にどうやって申し開きするつもりだ?」
「酒臭いんじゃない。これは俺の匂いだ」
「……話にならん」
 まともに声を発したかと思えば、得意の屁理屈に拍車がかかっている。平時ならともかく、人を煙に巻くような物言いに付き合う余裕は今のアラミスになかった。呆れる友人を尻目に、アトスはゴブレットの中身をあおると袖で口を拭った。
「…アラミス、君の方こそどこへ行っていた?」
「ああ、コンスタンスの見舞いに」
「ふむ。連日ご苦労なことだ」
 最初、アラミスはアトスがねぎらってくれたのかと思った。
「いや、別に苦労というほどでも…」
「君の、コンスタンスへの執着は感嘆に値する」
「……?」
 遠回しな言い方は要領を得ず、アラミスは眉をひそめたが、次の瞬間、耳を疑った。
「戦死した友人の恋人を毎日訪ねる銃士のことを、みんな何て言うだろうな」
 アラミスはかっとして、アトスの襟元をつかんだ。ゴブレットが落ちてワインが床にこぼれた。
「侮辱するのか!」
「人目も憚らず毎日毎日…女の考えることはよく分からん、と思っただけだ」
「コンスタンスや僕が傷ついてないとでも?」
 アラミスはしばらく睨んでいたが、アトスは無言のまま表情一つ変えなかった。ふいに泣きたいような気持ちに襲われ、アラミスはアトスを乱暴に突き放した。
 自由になったアトスはゴブレットを拾うと、手近な樽からワインを注いだ。今しも飲もうとした所に、アラミスの手が伸びてゴブレットを奪われてしまった。顔を上げる間もなく、アラミスは一息に飲み干しゴブレットを壁に叩き付けた。鈍い打音が酒蔵に響き、跳ね返ったゴブレットは酒樽の影に転がって見えなくなった。
 ゴブレットの行方を追っていたアトスの視線が横を向く。ひどい嫌みを吐いたと自覚していたが、あまりに直情的なアラミスの行動に、いささか驚いていた。今度はアトスがアラミスの顔色をうかがう番だった。
 アラミスは立て膝の上にあごを乗せて、前方を睨みつけている。その憎悪の対象が何者なのか、アトスには見当もつかない。
「いい機会だ。一つ、知人の話をしてやろう」
 豊かな髪の隙間から覗いた青い瞳は異様に血走っていた。
「発端は7年前にさかのぼる――」



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プチあとがき

飲食店で出されるワインは樽詰めじゃなくて瓶詰めになってる気がしますが、開き直って樽にしました。瓶だと、八つ当たりした時に大惨事になりかねませんし~。安全に配慮しました(嘘)
それにしても貯蔵樽ごと飲み干すって、どんだけ飲んでるんだか。ビール腹ならぬ、ワイン腹め。

…と、アトスに対して暴言を吐いたので(ビール腹ワイン腹)フォロー代わりに、アトアラ的な解釈でも。アトスがいじけて(?)飲んだくれているのは、アラミスがコンスタンスばかり気にして自分に構ってくれないから~と考えるのもアリです*^^*

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Date:2010/11/01
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