きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

9. 招かれざる客

 ベルイールの戦いが終結し、国王や従軍した兵士たちが王都パリへ帰還した。
 鉄仮面に奪われた富豪たちの資産は、騒動の中で散り散りとなり、全てを取り戻すことはできなかった。だが、アンヌ王妃の取り計らいで、ボナシュー家は粗末な借家から元の家に帰ることができた。被害を受けた重臣や貴族たちと比べても、破格の待遇である。しかし、何もかも元通りとはいかなかった。

 家々の屋根が赤く染まる頃。銃士の仕事を終えたアラミスが城を出ようとすると、ポルトスに呼び止められた。
「お疲れさん。ん、馬はどうした?」
「ちょっと用があるんだ。今日は歩いて帰るよ」
「そうか。でもさ、たまには付き合えよ」
 ポルトスが杯を傾ける仕草をしてみせた。
「ポルトスの場合は飲むより食い気の方だろ」
「違いない」
 二人は笑った。こんな風に笑いながら話すのは何日ぶりだろうか。
「でもさ、本当に来いよ。毎晩アトスと二人きりというのも味気ないんだよなあ」
 ポルトスは口の端に笑みをのせながら、わざとらしくため息をついた。
「用事が済んでからでいいからさ」
「でも」
「頼むよ。アラミスの馬は俺が連れて行くから。な?」
 城の厩舎に馬をつなぎっぱなしというのは、確かに気が引ける。愛馬の面倒まで買って出られて、アラミスは断りきれなくなってしまった。



 ボナシュー家の扉が叩かれた。裏口だから、仕立ての客ではない。家政婦のマルトは夕食の支度で手が離せなかったので、ジャンが扉を開けた。この家に来た当初、ジャンは手伝いどころか起床時間すら煩わしく思っていたのだが、元々気が利く性格な上、ボナシュー一家の人柄の良さもあって、すっかり下働きが板についている。何もかも、ダルタニャンとの出会いがなければあり得なかったことだ。
「はーい、どちら様……」
 夕日を背に、大きな帽子と腰に下げた剣のシルエットが浮かび上がると、ジャンは目を見張った。
(ダルタニャン……!)

「こんにちは、ジャン」
「あ……何だ、アラミスか」
 ベルイールから帰って以来、ボナシュー家は沈んだ空気に包まれていた。息が詰まりそうな家中に外の風を吹き込んでくれる来訪者はありがたい存在でもあったが……。
(別に毎日来なくたっていいのに)
 ジャンは安堵と落胆が混ざった複雑な気持ちに襲われた。
「コンスタンスはいるかい」
 アラミスが階上に目配せした。
「うん」
「今日も城へ出仕しなかったんだな」
「しょうがないだろ。毎日毎日、見張りにきてるのかよ」
「まさか!」
 あわてて否定するが、ジャンはフンっと横を向いてしまった。
「本当だよ。事情は、王妃様も僕たちもみんな分かっているのだから」
 ジャンが横目でアラミスを窺うと、思いのほか優しい。アラミスが時々見せるこの表情に弱いのだ。ジャンは毒気を抜かれてしまったが、意地を張ってわざと険を寄せた。話をそらそうとキョロキョロしていると、アラミスの手荷物に気付いた。
「それ何?」
 近頃のアラミスは来る度に、花など何か手みやげを持っていた。今は「包み」を大事そうに抱えている。

「ジャン、何をやってるんだい?……あら」
 奥からマルトが現れた。立ち話が終わらないので様子を見にきたらしい。
「まあまあ、アラミス様。今日もお嬢様のお見舞いに?」
「ええ」
「銃士隊もお忙しいでしょうに。毎日来てくださらなくてもいいんですよ」
 少し刺のある言い方だとアラミスは思ったが、この家の複雑な状況を考えれば無理もない。戦地から無事に帰還した者と帰らざる者。この差は大きい。ボナシュー家の人にとって、ダルタニャンの存在はそれほど大きくなっていたのだ。ただの下宿人ではなく、家族同然に。
「マルト、アラミスはお見舞い持ってきたんだよ。そんな言い方しなくたっていいじゃん。それに、ほら」
 ジャンは裏口から出て、アラミスの背後に回った。
 ボナシュー家の裏口には小さな厩舎がある。少し前までロシナンテを繋いでいたが、今は空き部屋だから訪問者が自由に使える。厩舎が空いているということは、アラミスは見舞い品のために城から歩いてきたのだろう。
「まあ、お城からずっと歩いて?」
「大した距離じゃありませんから」
「ほら、入って入って」
 ジャンがアラミスの背中を後押しした。自分が招かれざる客だと察して、さすがにアラミスも気が引けたが、今日はどうしてもコンスタンスに会わなければならなかった。
「お食事時に申し訳ない。すぐお暇しますので」
「お客さんはおいらが相手するからさ。マルトはご飯作っててよ。火、大丈夫?」
「ああ、そうだった。大変大変!」
 マルトは軽く頭を下げると、ぱたぱたと炊事場へ消えた。



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プチあとがき

マルトが冷たい(笑)
いやー、マルトさんはコンスタンスお嬢様一筋なので。そっとしておいて欲しいと思ってるんですよ、きっと。
そして、ジャンがさりげなくアラミスの味方になってます。ナイスフォロー!
あと、ジャンに「~じゃん」という語尾を使わせることができて、とても満足しました。私が。

時系列が同人誌バージョンの話に追いつきましたが、ちょこちょこ内容を変えてます。比べてみるのも面白い…かも。同人誌は誤字脱字が多いので、あまり読み込んで欲しくないんですけどね…(自業自得)

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Date:2010/10/22
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