きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

8. 海の藻くず

 ドレスの厚い布地が海水を吸って、次第に重くなっていく。コンスタンスは脱ぎ捨てても構わないと思ったが、立ち止まることはできなかった。靴はとっくに脱げていたが、探そうとも思わなかった。
(一刻も早くあそこへ行かなければ――)
 波間をかき分け、水面がドレスの裾のほとんどを濡らした頃、突然腕を取られた。振り払おうとしたが、更に腰に手が回り、強い力で引き寄せられる。
「何をしている」
「離して!」
 相手が誰かなど考えもしないで、コンスタンスは闇雲に暴れた。水しぶきが激しく跳ね上がる。
「く…!」
 抵抗すると思わなかったのか、相手から驚きと焦りが伝わってきた。もう少しで振りほどける…と思った瞬間、後頭部に強い衝撃を受けてコンスタンスの意識は闇に沈んだ。



 アトスが失神したコンスタンスを抱いて岸に戻ってきた。思わぬ抵抗に遭い、頭まで海水を浴びている。ポルトスが駆け寄ると、アトスは肩で息をしていた。乱れた髪が頬に張り付いている。
「かわいそうだが、当て身で眠ってもらった。じきに目を覚ますはずだ」
「お…お前、器用だな。いや、そんなことより! ああコンスタンス……まさか、歩いてベルイールに行こうとしたのか?」
「あるいは、ダルタニャンの後を追って入水自殺を図ったか」
 浅瀬が多い海域とはいえ、海を歩いて島へ渡るなど到底無理な話だ。アトスは一息ついて、抱き上げたコンスタンスを見下ろした。死んだように蒼白な顔色だが、腕から温もりが伝わってくる。
「もっと賢明な娘だと思っていたのだがな」
 先ほどの激しい抵抗を思い出し、アトスは眉をしかめた。海面は腰にも届かない深さだったが、濡れた服を着たまま波に足を取られれば溺れることもあり得た。正気でないコンスタンスを保護して、無事に陸に戻れただろうか。

「コンスタンス!」
 走ってきたジャンがアトスに飛びついた。
「死んでないよね…?」
「大丈夫だ。生きてる」
 ジャンからコンスタンスが見えるように、アトスはかがみ込んだ。ジャンの両手がコンスタンスの頬を包み込む。
「なんてひどい顔色なんだよ。コンスタンス、目を開けておくれよ…!」
 みるみる瞳がうるんでいく。生きていることが分かっても、ジャンの心配は増すばかりだ。アトスは(目を覚まして、また海に飛び込まれては困る)と思ったが、そんな感情はおくびにも出さず、医者に診てもらおうとジャンを促した。

 少し遅れてアラミスが合流する。だが「これを頼む」とポルトスに剣帯を投げて、真っ直ぐに走り抜けた。いきなり剣を投げられてポルトスは慌てたが、かろうじて受け止める。
「わわ、どうしたんだ?!」
 ポルトスの問いには答えず、アラミスは躊躇なく海へ踏み込んだ。

 海面には海藻や藻くずに混じって、ベルイールから投げ出された瓦礫、石材や木片、時には死体が漂っている。アトスがコンスタンスを捕まえた地点より少し先に、潮の流れでそんなごみの溜まり場が出来ていた。
 アラミスはその中から何か掴み上げると、ようやく引き返してきた。
「ああもう、ずぶ濡れじゃないか! けが人なんだから無理するなよ。コンスタンスならアトスが助けてここに」
「分かってるよ」
 アラミスの青い服は水を含んですっかり黒づくめだ。その手には、やはり黒く変色した何かを持っている。ポルトスが怪訝な顔をした。
「何だ、それは」
 アラミスは無言でそれを広げた。寒いのか、その手は小刻みに震えている。
 「それ」は濡れて黒っぽくなっているが、元は青緑色だったようだ。ちょうど頭が収まりそうな凹みがあるが、ふちは失われて原形をとどめていない。形を整えると、根元だけ残った無惨な赤い羽根が地に落ちた。それは紛れもなく――



 ――コンスタンスに新しく作り直してもらったんだ――



「あ……」
 記憶の中で瑞々しい笑い声がこだました。同時に、見るも無惨となった「それ」が意味するものを悟り、ポルトスは愕然とする。
「ダルタニャンの帽子、か」
 潮風に飛ばされないよう、羽飾りの残骸を拾い上げたアラミスがこくりとうなずいた。

 一部始終を見ていたアトスがゆっくりと視線を落とした。
「君はこれを見つけたのか」
 先ほどと変わらず険しい表情だったが、声色は柔らかかった。だが、その声はコンスタンスに届かない。アトスの腕に体を預けたまま、ぴくりとも動かなかった。



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プチじゃないあとがき

やっと一段落~。
アラミスは細かいことに気づくタイプだと思うので、こんな役回りになりました。女は目ざといのです。
爆風で帽子のつばがボロボロに傷んだ状態なので、持ち主であるダルタニャンの行方・容態もそれなりに…と想像していただければ。
青緑色のボロ帽子は、ぱっと見だとワカメに見えると思います。ワカメを一掴みしてるアラミス……シュールな光景だわ~。はっ、海の藻くずとはそういう意味だったのか(えー)

さて、今回の続きが同人誌版のMélodie de vieになります。お持ちの方はご参照ください。実は、辻褄が合わない箇所があるのですが、何とぞご容赦を(同人誌を書いていた時は細かい設定決めてなかったυ)
1話の前書きで書いた通り、同人誌の話は再掲しません。Web版ではあらすじを載せて、続き~結末を載せようと思っていたのですが…

…ちょっと考えが変わってきました。
話の一部があらすじだけというやり方は、Web版しか読んでいない方に申し訳ないかなあ、と。
見方によっては、同人誌を買わせようとする悪徳商法みたいですし。あのー悪徳商法じゃないですよー。在庫ないので商売になりませんから(自家印刷・製本なので刷り直しは可能です)
そもそも、同人誌バージョンは辻褄が合わないという欠点がありますしね…(同人誌もWeb版も、話全体の骨格は同じですが、ある一点において設定が異なります)
いっそ、書き直してしまおう! …と、今、あとがきを書きながら決めました。
辻褄を合わせた改訂版でなく、登場人物を含めてまるっと違う話にすれば、Web版オンリーの方も、同人誌持っている方も、双方ともに楽しめますよね。よし、これで行こう。

…面倒くさいことしてるな~と自分でも思います。頑張ろうっと。

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Date:2010/10/15
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