きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

7. 木霊の声

 アトスは腕組みしながらベルイールへ通じる湾を見つめていた。
 アラミスの様子を見に行く途中で、検問を敷いているジュサックとローシュフォールから話を聞いたが、特に有効な話ではなかった。……と、ポルトスは思っていた。
 だが、アトスは違ったらしい。ローシュフォールの災難を知る由もなく、歩き出してしばらく行くと足を止めた。目を細めたのは日差しの眩しさのためでなく、何事か思案しているのだろう。ポルトスも立ち止まる。
 海は穏やかな凪だが、頬をなでる潮風は次第に強くなっていた。
「なあ、アトス。帽子飛ばされるぞ」
 傍らにいるポルトスが帽子を深くかぶり直した。大きなつばと華やかな羽飾りに縁取られている銃士たちの帽子は、ふとした拍子に風に飛ばされやすい。
 以前、ダルタニャンが帽子をなくした時に「コンスタンスに作り直してもらったんだ」とはしゃいでいたのを思い出した。あれはいつのことであったか――
「この辺は大小さまざまな島が多くて、風光明媚な土地なのだが」
「……へえ。こんな時じゃなければ、みんなで飯を食いに来るのもいいな」
 ポルトスは(こんな時に不謹慎かもしれない)と思わなくもなかったが、この先の未来への願いを込めて軽口を叩いた。ダルタニャンもコンスタンスも一緒に、あんな事があったと笑いながら食事できたらいいのに、と。
 ポルトスの気持ちを汲んだのか、アトスが「そうだな」と相づちを打った。しかし、腕組みをしたまま、話を続ける。
「島が多いということは、ベルイールから逃げた連中が隠れるのに最適ということでもある。ジュサックの話もあながち的外れではないかもしれん」
「…人さらいのことか?」
「戦場に年若い娘がいれば否応にも目立つ。起死回生を狙う残党がコンスタンスを人質にして、他の島へ逃げ込んだ可能性も」


 おーーーい



 潮風に吹き消されそうな呼び声を聞きつけて、ポルトスは辺りを見回した。男か女か、子供か大人かも判別できないその声は、海の木霊か、または魔物セイレーンの歌声か――。
 ぞっとする間もなく、砂と草が混ざった緩やかな丘からアラミスが駆けて来るのが見えた。ジャンも一緒だ。
 ポルトスは「やっぱりゆっくり治療に専念する奴じゃなかったか」と半ば呆れながらも、元気そうな様子には安堵して、「よぉ」と片手を上げた。呼応するようにアラミスも手を挙げた。が、その手は手のひらを向けずに海の向こうを指し示した。
 はっとしてポルトスが振り返ると、アトスがこつ然と姿を消していた。足下にボルドー色の帽子を残して。



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プチ後書き

すいません、一段落できませんでした。予告していたサブタイトルも変わってしまいました。
長くなり過ぎたので2話に分割したのですが、キリがいい所でぶった切ったら今回分は短くなっちゃった。

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Date:2010/10/11
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