きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

6. 暇人隊長

 フランス本土とベルイールを結ぶ船が引っ切りなしに行き来している。島の要塞から戻って来る船には負傷者および捕縛された鉄仮面一味の残党が、渡る船には銃士や護衛士が乗り込む。敵方が紛れ込まないよう検問を敷いているが、ほぼ決着がついた現在は形ばかりの様相を呈していた。
 仕事を持て余している護衛士の一人が、人目も憚らずにあくびをした。
「なーんで俺がこんな退屈な仕事をしなきゃならないんだ」
 あくびまじりの不満をこぼしたのは、護衛隊の隊長ジュサック。一時的とはいえ、マンソンの配下についたジュサックは、肩書きこそ隊長のままだったが、閑職に追いやられていた。

 コツコツと小気味良い革靴の音がジュサックの前で止まった。ジュサックはさっさと行けと言わんばかりに、手を振った。が、相手は立ち尽くしている。この面倒くさい奴は銃士に違いない、ツラを拝んでやろうと睨みを利かせた瞬間――
「ジュサック、お前は何をやっとるか!」
「はっ、ローシュフォール様!」
 聞き慣れた叱責を受けて、ジュサックはバネのごとく飛び上がり背筋を伸ばした。目の前で癇癪を破裂させたのは、枢機卿リシュリューの腹心でジュサックの上司でもあるローシュフォール伯爵だ。
「本来なら罷免されてもおかしくない貴様を護衛隊に……しかも隊長職のまま留めてやったのは誰のおかげだと思ってるんだ。俺の顔に泥を塗る気か!」
 くどくどと説教が続く。ローシュフォールは黙っていれば渋い面構えなのに、感情に任せて素っ頓狂な声を張り上げるのが玉にキズだ。しかも説教が長いので、部下たちの評判は芳しくない。だが、ジュサックは自分から進んで伯爵と行動を共にするようにしていた。少ない労力で早く昇進するための知恵である。周りからは良いコンビだなどと言われているが、ジュサックに言わせれば自分が伯爵に合わせているだけでなのである。
「は、は、すみません」
 ジュサックの肚の内はともかく、仕事中の大あくびと言い、こうして上役に媚びる姿と言い、護衛隊隊長としての威厳は皆無だ。
「まったく……。まあ、仕事が暇なのは分からなくもないがな」
「でしょー」
「だからと言って、仮にも戦場で堂々とあくびする奴がいるか!」
「だってー、俺だって戦いたいですよー」
 当人たちがどう思っていようと、二人の会話はほとんどコントである。
 説教しているローシュフォール自身も、暇を持て余しているからこそ、こうしてジュサックの相手をしているのに違いなかった。



「ローシュフォール伯爵」
「アトスではないか。さっき結構な人数の銃士がベルイールへ渡ったが、お前たちも行くのか?」
 ローシュフォールとアトスは、共にシャトレの牢獄に幽閉されて以来、妙に親しくなっていた。背の高いアトスとローシュフォールに挟まれると、ジュサックはどうにも目立たなくなってしまう。
「ふん。あれだけ暴れておいてまだ足りないのか」
 ジュサックは存在感を誇示するように悪態をついた。
「活躍と言って欲しいなあ」
 すかさず、ポルトスが受けて立つ。ジュサックとは逆に、縦にも横にも存在感のあるポルトスが面白そうににやにやしている。軽くにらみ合っている二人に構わず、アトスは話を続けた。
「いや、我々は行かない。別の任務を請け負っているからな。つかぬことを聞くが、コンスタンスを見かけなかったか」
「コンスタンス? アンヌ王妃の侍女がこんな汗くさくて血なまぐさい現場に来る訳がなかろう」
「来ましたよ」
 ポルトスとにらみ合っていたジュサックが、今度は真面目くさった顔で口を挟んだ。
「何だって?! まさかベルイールへ行ったんじゃ」
 アトスがジュサックにつかみかかる勢いで尋ねた。小柄なジュサックの胸ぐらを掴む形になる。
「んな訳ないでしょ。あそこは女子供が行くような場所じゃない。これでも俺だって仕事してるんだ」
 ジュサックはアトスの腕を払いのけ、ふふんと胸を張った。
「…失礼した。それでコンスタンスはどこへ行った?」
「さあねえ。小娘はおうちへ帰んなと言ってやったから、今頃パリに帰ってるんじゃないか」
と言って、ジュサックは小馬鹿にしたように笑った。一方で、アトスは考え込む。
「ベルイールに渡ってないなら、まだこちら側にいるのか」

 事情が飲み込めないローシュフォールは、アトスとジュサックを交互に見やる。
「何だかよく分からんが、役に立ったのか? コイツは」
 褒められそうな雰囲気を感じて、ジュサックはますます胸を張る。
「ああ、ありがとう」
「コンスタンスを探しているのか。また誰かに捕まったりしてるんじゃないだろうな」
 ローシュフォールがちらりとジュサックを見た。慌ててジュサックが首をぶんぶん横に振った。
「俺じゃないですよ~! あ、あれじゃないですか。コンスタンスはダルタニャンを探しにいこうとしたんですよきっと」
「何だと? ダルタニャンもいないのか?」
 水際で従事していると、真偽の不確かなあらゆる情報を耳にする。疑いの芽を摘もうと、ジュサックは積極的に情報を提供した。
「らしいですよ。あの小僧、例の爆発現場にいたとかで、さっきから銃士隊の連中が必死になって探してますよ。ガキ一人相手に、ご苦労なことで」
「……」
 打てば響くように言葉を返すローシュフォールが沈黙した。
「ローシュフォール様?」
「……ジュサック」
 やっと絞り出したローシュフォールの声は、裏返っていて聞き取りにくかった。
「はい?」
「俺もベルイールへ行くぞ! お前もついて来い!」
「ええぇぇぇ! いやいや、私はここで仕事がありますんで」
「くっ、さっきまで俺も戦いたいっすよーとか何とか言ってたくせに……。情けない奴め。ええい、俺は一人でもベルイールへ行く! 船に乗せろ!」
 ローシュフォールは、今しも出航しようとしていた船に飛び乗った。急な戦ゆえに港を作れるはずもなく、ベルイールまで行き来しているのは手漕ぎの船である。
「あ、ローシュフォール様、その船はもう定員オーバーで」
 ジュサックの警告が終わる前に船がぐらりと傾いた。乗員は船のへりに掴まったので事なきを得たが、片足に重心を移していたローシュフォールがバランスを崩したのは言うまでもない。
「お? ぬおおぉぉぉ……ッ?!」
「ローシュフォール様あぁぁぁ!」
 派手な水しぶきを上げて、ローシュフォールは海へ落ちた。浅瀬で何よりである。



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プチ後書き

予定になかった話その2(でしょうね)。
あっれー、シリアス話を書いてたはずなのに何故かギャグちっくになってるー。
ローシュフォール&ジュサックの掛け合いはいつか書いてみたいと思ってましたが、書き始めたら止まらなくて。書いてる分には楽しいですが、そろそろ話の本筋を追いかけないと、いつまで経っても終わらないぞ。

一応、次回で一区切りつきそうです。
脱線しないように自重自重…

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Date:2010/09/25
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