きおくにないうみ ver.3

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□ 二次小説・短編 □

なみだ酒

前のサイトで1500HIT申告を頂いたナナ様へ進呈作でした。
映画版終了後の四銃士の話。






 機密文書事件から数日。
 面倒な事後処理もなんとか終わり、銃士たちは平穏な日常に戻っていた。一日の勤めが終わり、柔らかい夕日を背に、いつも通り各々の家路につく。
 四人連れ立って銃士隊詰め所を出たある日のことである。珍しくアラミスが皆を呼び止めた。先を歩いていたダルタニャン、アトス、ポルトスが振り返る。
「ダニエル侯爵から届いたんだ」
 前もって四人揃う日を狙っていたのだろう。アラミスの手には、いつの間にか、包みが握られていた。
「何だ?それは」
「先日の礼だそうだ」
 その外見は、厚めな割に柔らかそうな絹織物で、贈り物本体に期待を抱くには十分である。
 アラミスは上目遣いに一同を見回すと、勿体ぶったようにゆっくり包みを開いた。丁寧にくるまれていた布が滑り落ち、ワイン用にしては、少々小振りな瓶が現れた。
「これは…」
 包みから解かれた酒瓶に最初に反応したのはアトスだった。
「よく見せてくれないか?」
 瓶を受け取ったアトスは、側面に貼られたラベルを確かめ、光にかざして念入りに眺めた。中の液体が跳ね、眩しそうに目を細めたアトスの顔を、きらきらと琥珀色に染めた。
「添えられた手紙には、貴重な酒だということしか書いてなかった。アトスなら何か知ってるんじゃないかと思ったんだが」
「確かに、こいつは珍しい。あの館、アンティークな調度品が多いと思ったが、酒の方もなかなかいい趣味をしている」
「お酒なの?ワインとは色が違うみたいだけど」
 ダルタニャンの発した疑問に答える形で、アトスの蘊蓄(うんちく)が始まった。
「知らないのも無理はない。ワインを二度蒸留させた後、更に樽で寝かせてできる酒で、一説によると、神のお告げを受けて作られたとも言われている。より品質を高めるべく研究中とのことで、一般にはほとんど出回っていないはずだ」
「研究中なんだろ?飲めるのか?」
 すかさず訊ねたのはポルトスである。
「もちろん。聞くところによると、ワインより芳醇で濃厚だとか」
「聞くところによると、だって?じゃ、アトスも飲んだことないんだな。そりゃ、希少な逸品だぞ」
 ポルトスの驚きには答えず、アトスは瓶をアラミスに返した。
「大事にすることだ。飲んでしまっても構わないが、売ればかなりの値になるはずだし、持ってるだけでも一種のステータスだ」
 手元に戻った贈り物を慎重に抱えながら、アラミスはかぶりを振った。
「酒の由来を知りたかったのも確かだけど、みんなで飲もうと思ったんだ。見せびらかす為に持ってきた訳じゃない」
「それは君がもらったものだろう?」
「ダニエル侯爵も私も、みんなの助けがなければ無事では済まなかった。いや、それどころかフランス自体が危険にさらされたかもしれない。…いいじゃないか、もらった物をどうしようが私の自由だ」
 自己犠牲を厭わないくせに、友人の手にすがる行為を躊躇するアラミスのことである。今回の件でも、心の中にしこりを感じているのだろう。
 ふむ、とアトスがうなずいた。
「そこまで言うなら、ありがたく御相伴に預かろうか」
「へへっ!そうっこなくっちゃ」
 満面の笑みを浮かべるポルトスとは対照的に、ダルタニャンがおずおずと切り出した。
「あの、悪いんだけど…、今夜はコンスタンスが夕食を作って待ってるんだ。だから、その」
「そうかそうか。ダルタニャンの分までもらっちゃって、悪いなぁ」
「ちょっと待ってよ、ポルトス!」
 慌ててダルタニャンが付け足した。
「僕だって飲んでみたい」
「一人だけ仲間はずれでは、確かにかわいそうだ」
 最年長者が最年少者の味方なのは、世の常である。それは四銃士の中でも例外でなく、口を尖らせるダルタニャンをアトスが味方した。
 後ろ楯を得たダルタニャンは「だろ?だから明日…」と言いかけて、はたと、言葉が途切れた。
「いや、やっぱりダメだ。酔いに任せて、結局、飲み干される気がしてきた」
「君を待ってるコンスタンス殿はどうするんだ」
「う…」
 事態を打開したのは、アラミスだった。
「今ここで回し飲みすればいいじゃないか。幸い、瓶は小振りだ。それに、回し飲みは友情の証と言われてる。たまには違うアクションで友情の誓いをするのも面白い」
「ありがとう!アラミス!」
 喜びのあまり、隣にいたアラミスに抱きつこうとしかけたダルタニャンだったが、戸惑いのような真顔を一瞬見せ、すぐ身を引いた。
 なにげない仕種を視界の端に捉え、アトスは眉をひそめた。あまりにわずかな出来事なので、どこに違和感を感じたのか釈然としない。理由はないが、気にかかる。

 それぞれの心に生じた波に、当事者のアラミスは気が付かないまま、早速瓶を開けた。
 えもいわれぬ薫りが辺りに広がる。
 途端に、目の前の物理的刺激に心を奪われ、二人とも些細な出来事は忘れた。
「誰から飲む?」
「やはりアラミスからだろう。君がもらったのだから」
 すかさずダルタニャンが口を挟んだ。
「ポルトスは最後だよ。全部飲まれちゃいそうだもん」
「信用ないなあ」
 アラミスは、くすりと笑うと「では、お先に」と言って、まずは香りを楽しみ、そして瓶をあおった。白いのどが波打ち、嚥下するのが分かる。
「おーい、俺の分まで残しといてくれよ」
 ポルトスがかなり真剣に呼びかけている。
 一見すると、アトスもポルトスと同じく、アラミスに視線を注いでいるように見えるが、今は酒の事よりも、その細いのどに注意が向いていた。余りに滑らかな喉元に、先ほど拭いきれなかった不自然さが、再び頭をもたげる。
 そしてそれは、やがて一つの推論に到達していた。


 アラミスの口を離れた瓶の中身は、きっちり四分の一減っている。
「次はアトスか?それともダルタニャン?」
「では私が…」
「あ、ちょっと待った!」
 瓶を受け取ろうとしたアトスに、ダルタニャンが大声で横やりを入れた。突然の大音声に、思わず瓶を取り落としそうになり、脇のポルトスが慌てふためいた。
「危ないじゃないか!」
「ご、ごめん」
「先に飲みたいのか?」
「いや、そうじゃなくて」
 回し飲み。多人数で、直接一つの盃を口にする行為である。
 アトスやポルトスは気にするべくもないが、アラミスが女性であることを唯一知っているダルタニャンは見過ごせなくなってしまった。
 こっそり目配せしたが、アラミスは何も気が付かず、きょとんとした表情で見ている。
 こちらの気遣いも知らず、無頓着なアラミスに、ダルタニャンは少し苛立った。同時に、妙な気恥ずかさを覚えたことで顔に火照りを感じ、思わずうつむいた。感情を隠そうと、眉間に力が入り、必然的に不機嫌な表情が表れる。
「…アラミスの次、というのが問題なんだ」
 憮然としたまま、そう言うのが精一杯だった。
「もしかして、私の後が嫌…なのか?」
 少なからずショックを受けたようにアラミスが尋ねた。
「つまり私の後は汚くて口も付けたくない。そう言いたいのだな」
「そんなんじゃないって!アラミスはもう少し自分の立場を…」
 ダルタニャンはムキになって否定したが、後が続かない。
 僕にはコンスタンスがいるし…と、周りに聞こえない小さな声で、独り言をつぶやく。
(だってアラミスは女の人じゃないか。回し飲みなんて、そんな簡単にしちゃ駄目だよ)

 アトスは二人のやり取りを興味深げに眺めていたが、頃合いを見て口を挟んだ。
「やれやれ、埒があかないな。ダルタニャンは三番目がいいようだし、ポルトスは最後、となれば、次は私しかいないじゃないか」
「それもダメだ!」
 振り返ったダルタニャンを、アトスは平然と見据えた。
「では、次はダルタニャンが飲むか?だが、君にはコンスタンス殿がいるだろう?」
「それはそうだけど…」とダルタニャンは言いかけて、ぎょっとした。目の前のアトスは、先ほどから変わらず落ち着き払っているように見えるが、その口振りは、まるで…

「ちょっと話がある」
 唐突にダルタニャンはそう言うと、アトスを引っ張って、その場を離れた。そして声の届かないところまで来ると、くるりと振り向いた。
「アラミスの事、気付いてるんだろ? 一体いつから…」
「もしかしてと思ったのは、ついさっきだ。そして、君の今の言葉で確信した」
 原因が己の言動だったと知って、「しまった」とばかりに口を押さえたが、既に遅い。
 かつて、ダルタニャンは嘘をついたことがない事を誇りにしていた。だからこそ、偶然知ってしまったアラミスの素性について、極力忘れるよう努めていた。隠し通す自信がなかったからだ。だが、一旦思い出してしまった以上、友の為と分かっていても、ごまかすなど到底無理だったのだ。
 本人は気が付いていないのだろうが、揺れる心情がそのまま表れることに、アトスは苦笑しながら逆に質問した。
「ダルタニャンは態度が正直過ぎる所があるからなあ。君こそ、いつから知ってるんだ」
「僕の場合は、偶然だったんだ。それより、まさかポルトスも…?」
「いや、まだだろう」
 アトスは顔の向きを変えずに、少し離れたポルトスとアラミスを見た。二人は怪訝そうにこちらを眺めている。このまま揉めているのは得策でない。
「で、問題の回し飲みの順序だが、私は別に誰がアラミスの次でも一向に構わん。しかし、ダルタニャンのコンスタンス殿への想いの深さは、私もよく知っている。君がためらうなら、二番手は私しかいないではないか」
「でも…」
「あまり話を長引かせるな。いくらポルトスがお人好しと言っても限度がある」
 ポルトスまでアラミスの正体に気が付けば、更にややこしくなるのは目に見えている。
 うまく言いくるめられている気がしなくもないが、アトスの言い分で妥協することにした。

「随分と長い内緒話だったな」
「心配はいらない。問題は無事に解決した」
 いくらか皮肉の感じられるアラミスの一言を、アトスはしたり顔で一蹴した。
 そして、改めて瓶を手にすると、開いた飲み口を覗き込んだ。
 鼻孔をくすぐる芳醇な薫りはもちろんのこと、ほんのりと湿り気を帯びた飲み口は、つややかで、どことなく艶かしい。
「では、頂こうか」
「…」
 まだ何か言いたげなダルタニャンを無視し、一呼吸置くと酒瓶を唇にのせた。
 鼻を抜ける濃厚な薫りといい、まろやかな口当たりといい、どれをとっても、噂通りの比類無き美酒であった。神のお告げで製造されたという話も、あながち嘘ではないかもしれない。
 軽い吐息と共に瓶が口から離れた時、アトスの目元が幾分染まっていたのは、酔いのせいだけではなかったかもしれないが。

 突如、ダルタニャンが「あっ」と小さく声を上げた。
 我に返ったアトスは、その手に握った酒瓶を、もう一度眺めた。
「?」
 心なしか、軽いような気がする。瓶の中の液体が波打つのを待つまでもなく、半分どころか、四分の一と言っていいほど中身は少なくなっていた。
「アトス、ずるいよ!」
「ちょっと待て。私はそんなにたくさん飲んでない」
 ここぞとばかりに食って掛かってきたダルタニャンを制しながら、ふとアトスは、こんな時に一番騒ぎそうなポルトスが、やけに大人しい事が気になった。
 それに、冷静になって思い返してみれば、アトスに酒瓶を手渡したのは、アラミスではなくポルトスだったような…?
 恐る恐る聞いてみた。
「まさか、ポルトスはもう…?」
「さすがに鋭いな。君たちの内緒話が、あんまり遅いので、先に頂いちまった」
 悪いなあ、と豪快に笑うポルトス。
「余分に飲まないよう、ちゃんと見張っておいたから安心しろ」
 アラミスは屈託なく微笑むと、表情の固まったアトスの手から瓶をもぎ取り、「さあ」とダルタニャンに手渡した。
「一人はみんなのために、みんなは一人のために。だろ?」
「ああ。美味い酒を分けてくれたアラミスに大感謝だ」
 無邪気な笑顔を浮かべたアラミスとポルトス。その横にいるアトスの背中は、してやられたローシュフォール伯爵も顔負けなほど、哀愁を漂わせている。おそらくダルタニャン自身も、同じくらい情けない表情をしていることだろう。
 ダルタニャンは押し付けられた瓶を握りしめ、ははは、と乾いた笑い声を漏らした。
(アラミスの次がポルトスで、ポルトスの次がアトス、アトスの次が…僕?)
 去来した雑念を振り払うように、一気に飲み干した。
 これから先、一生飲めないような貴重な酒だったが、何故かしょっぱい味がした。

***

あとがき

ナナ様のリクエストは
「映画『アラミスの冒険』の、その後の四銃士について」でした。
ん、リク内容と違います…よ?
このお題なら、普通「四人の行く末」を書きますよね。
重々承知してます。

未熟者ゆえに書けませんでした。

一応は映画後のエピソードと言うことで、ギリギリ許容範囲かと(言い訳)
ナナ様、ごめんなさい。

話の中に出てくるお酒は、コニャックをイメージしました。
(コニャック=フランス・コニャック地方産の白ぶどうで作ったブランデー)
最初は漠然と「美味い酒」だったのですが、偶然コニャックの由来を知る機会を得まして、これだ!と。
アトスに語らせたうんちく、もう少し詳しく書くとこんな感じです↓。
16世紀末、遠征中のフランス十字軍の兵士が夢のお告げ通りに「ワインを二度蒸留させた酒」を作ってみました。あんまり美味しかったので、祝い用に樽に入れたまま保存して数年後、変色したその酒がコニャックの原型なのだそうです。その後100年間、質を高めるべく研究されたとか。
ですから、三銃士の時代はまだ研究中のはずです。

タイトルが演歌っぽいので、読む前から内容が想像できてしまいそうです。
センスないので、タイトルはいつも悩みます。
(2004.01.15)
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Date:2004/01/15
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