きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

4. 聞き分け

 分厚いカーテンで仕切られた一角に入ると、外の喧噪が少し遠のく。アラミスは寝台に座り、負傷した片腕を露にしていた。止血に使った端切れを取り去ると、ジャンが眉をしかめた。
「うわぁ…痛くないかい?」
「大丈夫だ。こんな傷、本当は君みたいな子供に見せたくないんだけど」
「おいら平気だよ。これでも修羅場くぐってるから」
 大人びた言い方に、アラミスは驚いたような呆れたような表情を見せたが、無言でジャンに身を委ねた。
「うーん、傷口は酷いけど本当に血は止まってる。アラミスの言ってた通りだ」
「だろう」
 ジャンは湯を浸した布で傷の周りを清め、清潔な包帯を手早く巻き付ける。その幼い手の意外な手際よさに、アラミスはまた驚く。
「ありがとうジャン」
「どういたしまして。思ったよりひどくなくて安心したよ」
 ジャンがさりげなく背を向けると、アラミスは再び上着に腕を通した。着替えが終わる頃合いを考えて、ジャンはゆっくりと包帯を片付ける。
「でもさ、やっぱりちゃんとお医者に見せた方がいいよ」
「うん、落ち着いたらトレビル隊長お抱えの医師に見てもらうつもりだ」
 ジャンは様子をうかがうように、ぎこちない衣擦れの音に耳を澄ます。
「傷口を縛っただけだと思ってたけど、薬が塗ってあったね」
「ああ。この程度で済んだのは、ダルタニャンにもらった薬のおかげだろうな」
「ふーん」
 ジャンは何か言いたげだったが、アラミスは気づかないで話を続けた。
「あの薬は本当に良く効くんだ。だから、きっとダルタニャンも……」
「アラミス?」
 語尾がよく聞き取れなかったので、ジャンは聞き返した。
「ダルタニャンがどうしたの?」
 衣擦れの音が止まった。ジャンが振り返ると、アラミスは上着のリボンに手をかけたまま固まっていた。唇を噛みしめ、苦痛に耐えているように見えた。
 傷が痛くて結べないのかと思ったジャンがアラミスに手を貸そうとすると、突然アラミスが立ち上がった。
「もう行かないと」
「えっ、ちょっと待ってよ!」
 着替えもそこそこに、アラミスは寝台の脇に置いていた剣帯をつかんで出て行こうとした。ジャンが引き止めようと慌てて手を伸ばした時、アラミスは振り返りながらジャンの目線に合わせるようにひざまずいた。そしてジャンの両肩に手をかけた。そのまま、無言で見つめてくる。
「な、何?」
 アラミスのめまぐるしい行動と真剣なまなざしに、ジャンは訳も分からずどぎまぎする。
「もう勝負はついたんでしょ。それならここで休んだ方が」
「ジャン。落ち着いて聞いてほしい」
 ジャンは眼前の青い瞳を見返した。涙こそ流れなかったが、その青は溢れんばかりの悲しみを湛えているように見えた。



「そんなの嘘だ」
「……」
「ダルタニャンが死んだなんて! おいらは絶対に信じないよ!」
 ジャンはアラミスの腕を振り払った。さらに握りこぶしで叩こうとして、けがのことを思い出しハッとする。
「ご、ごめんよ」
 アラミスは振りほどかれた手でジャンの頭を優しくなでた。
「いいんだ。僕も信じてないんだから」
「え?」
 ジャンが見上げると、アラミスが立ちながら言った。
「信じてない。だから探しにいってくる」
 ようやくジャンは納得した。アラミスがじっとしていない理由はこういう事だったのかと。
「おいらも行く」
「だめだ」
「またそうやって子供扱いして!」
「そうじゃないよ」
 アラミスが出て行こうとすると、ジャンがついてきた。包帯や諸々の治療道具は寝台に置いてきたらしい。
「だめだなあ。中途半端な仕事して」
「いいんだ。おいらはダルタニャンの方が大事だから」
 膨れっ面のジャンにアラミスは苦笑してしまいそうになるが、なんとか抑える。それにジャンの真剣な気持ちは痛いほど分かる。怪我をしているから、子供だから、女だから、という理由で行動を制限される悔しさはアラミス自身も何度となく味わっている。
(気持ちは分かるけどね)
 ジャンの幼くも真っ直ぐな心意気を好ましく思う。しかし現実的に考えて、鉄仮面一味の残党がいるベルイールヘ連れて行く事はできないだろう。
(さて、どうしたものか)

「このままついてきても良いけど、トレビル隊長に預かってもらうよ」
「やだ。おいらもベルイールに行く」
 ジャンは頑なだ。アラミスはふうと溜息を漏らす。
「……隊長のところにコンスタンスがいるんだ」
「あ!」
 頬を膨らませて前のめりに歩いていたジャンが、はっとしたようにアラミスを見上げた。
「トレビル隊長とアトスからダルタニャンについて聞いてる頃だろう」
「そんな…」
 ジャンは今さっき自分が聞いた話を思い出し、さらにコンスタンスの事を考えて息をのんだ。
「どうしよう」
 アラミスはうなずいて、話を続けた。
「今助けが必要なのはダルタニャンだけじゃない。ジャンにはコンスタンスの側にいてあげてほしいんだ」
 アラミスを見上げていたジャンの顔がくしゃりと歪み、徐々にうつむいていく。互いに、無言のまま歩を進めていたが、やがてジャンは観念したように呟いた。
「わかったよ」
 アラミスが視線を落としても、ジャンの頭が見えるだけで表情は窺えない。
「おいらはダルタニャンの代わりにコンスタンスを守るって決めてるんだ。ダルタニャンが帰ってくるまでの間だけ」
 ジャンはうつむいたまま、自分に言い聞かせるように言った。一粒だけ涙がこぼれた。



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プチあとがき

予定になかった話その1。その2があるかは謎。
個人誌バージョンで書いたようなアラミス&ジャンの会話を入れたくなって、テキストが増量しました。無駄話だったかもしれない。
冒頭、アラミスが脱いでるのに色っぽさ皆無なのが私らしいというか(苦笑)

一昨日あたりに、内容がちょっと違う(サブタイトルも違う)バージョンの4話が短時間だけありましたが、見た人は忘れてください。ネタバレとかじゃないんですけどね。うっかりうっかり。

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Date:2010/09/12
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