きおくにないうみ ver.3

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□ Mélodie de vie □

2. 負傷兵

 コンスタンスはジャンとともに、ベルイールの対岸に組まれたフランス国王軍の陣にいた。
 続々と負傷者が運び込まれてくる。小耳に挟んだ話だと、これでも被害は少ないらしい。それでも、コンスタンスのような宮仕えの娘には目を覆いたくなる光景に違いない。
「コンスタンス、大丈夫かい? トレビル隊長に頼んで奥に行く?」
 見かねたジャンが声をかけた。しかし、コンスタンスは青ざめながらも首を横に振った。コンスタンスはアンヌ王妃お気に入りの侍女であったから、要人が控える安全な陣幕の奥で待つこともできただろう。だが、彼女はここから離れるつもりはなかった。

 やがてコンスタンスは立ち上がると、意を決したように声を上げた。
「あの、私にもできることありませんか」
 負傷兵の看護に当たっているのは、軍医と近隣の教会から駆り出された修道士や尼僧たちだった。何もしないで悶々としているより、彼らと一緒にここで動き回っていた方が気が紛れる。それに、負傷兵が増えて寝かせるスペースがなくなれば、ここにいるだけのコンスタンスたちは追い出されてしまうだろう。
 しかし、どんなに辛くてもここから離れるわけにいかない。負傷者の中に顔見知りがいるのではないかと、特にあの無謀な少年が傷ついて運ばれてきやしないかと、コンスタンスは祈るような気持ちでここにいるのだ。
 年配の修道女から湯を沸かすように頼まれたコンスタンスは、ジャンを振り返った。
「私は大丈夫よ。でもジャンは私に付き合う必要ないわ。トレビル隊長のところで待ってる?」
「何言ってるんだよ! おいらはダルタニャンの代わりにコンスタンスを守るって決めてるんだ」
 ジャンも硬い表情で、しかし、そっとコンスタンスの手を握りしめた。「おいらだって心配してるんだダルタニャンのこと。……コンスタンスのことも」
 ジャンの小さな手は子供らしく柔らかかったが、所々が固いマメになっていて、力強さが感じられた。
「ありがとう、ジャン」



 がやがやとごった返す陣幕に、どすどすと重そうな足取りが響く。静かにしてくれと、軍医の鋭い声が飛ぶ。
「重傷だ。早く診てくれ」
 あの大きな声はポルトスだ。
(重傷? 誰が?)
 居ても立ってもいられず、コンスタンスは様子を見てくるようジャンを促した。心ここにあらずだが、仕事を放り出す訳にいかない。目の前の患者に包帯を巻きつけようとすると、腕を取られた。
「さあ、お嬢さんの仕事は終わりだ。お行きなさい」
 ここを任されている初老の軍医だ。不届き者な軽傷者が王妃付きの若い侍女に手を出さないよう、ずっと気にかけていたらしい。
 コンスタンスが戸惑っていると、今度は周りに聞こえる声で「傷ついた恋人を迎えて癒す仕事があるんだろう」と言われてしまった。すると、治療待ちの兵士にまで「早く言って来い」と囃し立てられる。コンスタンスは頬を染めつつも「恋人じゃありません」と一応は否定してみせたが、彼らの好意に甘えることにした。みんな恋人や妻子が待っている身なのだ。
(一人でも多くの人が無事に帰れますように)
 コンスタンスは軍医に一礼し、後を任せるとジャンを追いかけた。

 ポルトスはすぐに見つかった。ポルトスが連れてきた負傷者はアラミスだったのだが、当のアラミスが頑なに治療を拒み、ちょっとした騒動になっていたからだ。
「もう手当はしてある! 治療は不要だ」
「止血しただけだろうが。おーい、誰でも良いから今のうちにちゃちゃっとやってくれ」
「な、バカなことを!」
 ポルトスが抵抗するアラミスを羽交い締めにして、治療を受けさせようとしているのだが、看護に従事する者たちはアラミスの剣幕に圧倒されて手を出せないでいる。よりによって、あの三銃士の二人である。どちらかに味方をして、もう一方から恨まれるのは避けたい。ジャンが仲裁に入ろうとしているが、二人の耳には届いてないようだ。
(ダルタニャンじゃなかった)
 コンスタンスは思わず安堵し、すぐに後ろめたさを感じた。
(ケガの心配をする前に、ホッとするなんて…)
 アラミスだって大事な友人の一人なのだ。だが、これだけ騒げるならアラミスのケガも重傷というほどではなさそうである。
「ポルトスさん」
「コンスタンス?!」
 よほど驚いたのか、ポルトスは振り向いたまま固まり、その隙にアラミスが跳ね起きた。
「何でここに」
「無理を言って、ここでお手伝いさせてもらってたんです。お二人とも無事で何よりです」
「あぁ…うん、おかげさまでね」
「……」
 ケガのせいだろうか。どうも歯切れが悪い。ポルトスも目が泳いでいる。
「さあさあ、見世物じゃないんだ。行った行った」
 ジャンの一声で、ちらちらと遠巻きに様子をうかがっていた者は、各自の持ち場に戻っていく。

「アラミスさんが治療を嫌がるなんて意外です。お城の女の子たちが見たら何て言うかしら」
 コンスタンスが場を取り持つように微笑むと、アラミスはばつが悪そうに口を尖らせた。
「もう治療は済んでる」
「何言ってるんだ。撃たれたくせに」
 アラミスがポルトスを睨みつける。
「かすり傷だ。あの後だって戦ってただろう」
「あのっ、ダルタニャンは一緒じゃなかったんですか」
 こんな所で私事を持ち出すのは気が引けたが、また言い争いになりそうだったので聞いてしまった。
「……」
 口論を止める効果はあったが、二人とも押し黙ってしまった。ポルトスは下を向いて無言のまま。アラミスはちらりとポルトスを窺うと、意を決したようにコンスタンスを見据えた。
「アトスが隊長に報告に行ってるから、コンスタンスも話を聞いてくるといい」
「わかったわ。行ってきます」
 そうだ。三銃士とダルタニャンは行動を共にしていたのだから、ここにいないアトスに付いていったと考えるのが自然だ。すぐに行こうとして、振り返った。
「アラミスさんもちゃんと治療を受けてくださいね」
 忘れずに釘を刺しておく。
「あ、ああ」
「おいらが診てあげるよ」
「……頼むよ」
 ジャンに任せておけば大丈夫だろう。コンスタンスは足早に銃士隊の軍幕へ向かった。その背中が人波に消えるまで、ポルトスとアラミスは無言で見送っていた。



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プチあとがき

この時代、赤十字なんてないですもんねえ。
軍医とかいたのかな。よく分からないけどオリキャラとして登場。

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Date:2010/08/22
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