きおくにないうみ ver.3

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□ 二次小説・短編 □

道化ごころ 2

前回はこちら
次回はどこ…?






道化ごころ 2




「う……ん……」
「やっと起きたか」
 店の明かりはほとんど落とされ、客は二人だけになっていた。店主も奥まった私室に引っ込んでいる。
「他のみんなは?」
「とっくに帰ったよ」
「薄情な奴らだなあ」
「友達を放ったまま寝てしまうポルトスも相当薄情だと思うぞ」
 ポルトスは食べこぼしが残るテーブルに頭を載せたまま、隣のアラミスの様子を窺った。アラミスは腕組みしたまま動かなかったが、言葉に怒りは感じられなかった。
「そうかぁ。ごめんなぁ」
「おい起きろ。一体何時だと思ってるんだ。それとも……]
 アラミスは言葉を切ると、テーブルのパン屑を軽く払った。組んでいた腕をテーブルにのせ、交差した腕の窪みに自らの頭を沈めた。こうすればポルトスと目線の高さが同じになって話しやすい。
「何か悩みでもあるのか?」
「なやみ?」
「ポルトスがよく食べるのはいつもの事だが、つぶれるまで飲むのは珍しいだろ。悩み事があるなら相談に乗ってやろう」
「う~~~ん」
 ポルトスは唸りながらしばらく考えていたが、再び腫れぼったいまぶたが垂れてきた。再び眠られてはかなわない。アラミスは目の前の赤ら顔をぴしゃぴしゃと叩いた。
(だめだ…。この酔っ払いが深刻な話を抱えているとは思えない)
 アトスの勘は外れたようだ。いや、あれはアトス得意の戯れ言で、まんまと面倒を押し付けられただけなのかもしれない。そう思うと、どっと疲れが出てきた。
「ごめんな」
 うんざりした思いが顔に出たのだろうか。ポルトスの唐突な詫びに、アラミスは少し驚いた。
「……謝るより、しっかり起きてくれないか」
「痛かっただろ」
 ポルトスは手を伸ばすと、そっとアラミスの頬に触れた。
「スイス遠征に行く前、隊長の所で……殴っちまっただろ」
「あ……ああ、あれは……みんなが怒る事は予想してたから」
 今のアラミスには触れられたくない話だった。みんなを巻き込んでおきながら、未だに何も打ち明けていない。その負い目があるのに、先に謝られてしまったことで、アラミスの心は動揺した。
「俺は怒ってなんかいないよ。そんなことじゃないんだ」
 アラミスの心中を知ってか知らずか、ポルトスはゆっくりした口調で話し始めた。
「鉄仮面の時も今回も、いつもアラミスは一人で抱えこんじまう」
「……」
「俺は……俺たちは頼りにならないって言われてるみたいで、なんだか無性に悔しくて悲しくて、でもどうしたらいいのか分からなくて、俺は……」
「黙っていたことは謝るよ。だから」
 アラミスはいたたまれなくなって、ポルトスの言葉をさえぎった。
 何も告げられない別離。その辛さはアラミスも知っている。だからポルトスの気持ちはよく分かる。
 話せない理由があるとは言え、アラミスは親友を裏切る真似をした。一度ならず二度までも。
「君たちほど頼れる友達はいないよ。でも頼りたくなかったんだ。あの件は……個人的な問題だったから。ポルトスは何も悪くない」
「俺はアラミスが抱えてる色んな事、何も知らない。話してくれない事を責めてるんじゃないよ」
「分かってる」
「アラミスは何も言わないけど、なんだかいつも辛そうに見えるんだ」
 アラミスは言葉を失った。

 ポルトスという男は、どちらかと言えば賢者というより愚者の部類に入るだろう。愛すべき愚者だ。見栄っ張りで、食い意地が張っていて、直情的で……そして宮廷に出入りしていながら驚くほど打算のない心の持ち主だ。人の言動を疑うことなく受け入れる。だからポルトスを欺くのは容易だと思っていた。心の機微を感じる事は出来ないだろうと。
 だが、本人は自覚していないだろうが、ポルトスの透明なまなざしは、物事の本質を見抜いている。虚勢を張る事に慣れ、偽りだらけのアラミスの存在に誰も疑問を持たないが、ポルトスだけは本音の部分を騙す事はできないのだろう。

 静寂が息苦しい。ポルトスは柔らかな笑みを浮かべたままだった。
「……ポルトスは開けっ広げすぎだ」
「ははは。そうかもなあ」
 苦し紛れの皮肉だったが、ポルトスが笑い出したので、アラミスはほっとした。ポルトスには笑顔が似合う。周りを和ませるポルトスの言動に、何度助けられた事か。
「笑ってくれよアラミス」
「笑ってるよ」
「俺はアトスみたいに頭良くないから、あんまり頼りにならないかもしれないけど」
「そんな事ないさ」
 ポルトスの黒目がちの瞳が揺れた。
「俺、アラミスが少しでも笑ってくれるなら、いくらだってバカになるよ」
 赤く潤んだ瞳で見つめる。
「俺はピエロ役でいいんだ」
「ポルトス……」
 アラミスは胸を突かれるような思いがした。


 ポルトスの手が伸び、アラミスの頬を包んだ。鼻がくっつきそうなほど顔を寄せられ、思わずどきりとする。
「んー、本当に笑ってるか? ぼやけてよく見えん」
 眉間にしわを寄せたポルトスが、ろれつの回らない口でそんなことを言うので、アラミスは苦笑した。ああ、こいつはただの酔っ払いだ。
「ふん。とうとう目までイカれたか?」
 不敵に笑ってやると、安心したようにポルトスの目は細められて……
「お、おい」
 まぶたは伏せられ、アラミスのほおを包んでいた手は肩から背へと滑り、気が付くとすっかり抱きすくめられていた。
「あの……ポルトス?」
 呼び掛けに応じる代わりに、高らかないびきをかき始めた。
 押し退けるには、ポルトスの巨体は重すぎる。腕をほどくことすらままならない。途方に暮れたアラミスは、思わず天を仰いだ。
「……どうするんだ、これ」




あとがき

言うだけ言って逃げたな、ポルトス(笑)
アラミスは「酒樽」だの「酔っぱらい」だの言ってますが、吐かないだけマシだと思います。でも酔いに任せて抱きすくめるのはセクハラかもしれない……ポルトスなら力技でどうにでも出来そうです。
次回、ポルトスは力に任せて何かやらかすのか……?
(2005.07.19)
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Date:2005/07/19
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