きおくにないうみ ver.3

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□ 二次小説・短編 □

密会

アニメ終了後~映画の冒頭あたりの捏造エピソード。アラコン(いや、違うだろ)








密会



 パリ郊外、街道から外れた所に宿があった。
 ただ宿泊するだけなら、パリにあまたある宿で充分である。
 都からさほど遠くなく、質素で目立たない建物であったので、人目をはばかる用向きで逗留する者が少なくなかった。例えば追われる者であったり、ご禁制の品を取引する商人だったり、秘密の逢い引きをする恋人だったり……といった具合である。




 奥まった部屋で静かにたたずむ者がいた。
 柔らかな長い金髪を肩に垂らした若い娘である。部屋に置かれた椅子は二脚。入り口の正面を向いた椅子に座り、娘は約束した待ち人が来るのを待っていた。

 廊下の気配を察した娘が顔をあげると同時に、扉が控えめに叩かれた。
「開いてます」
 娘が立ち上がりながら答えると、ノックの主が音もなく入ってきた。羽根帽子を目深にかぶっているが、眉目秀麗な銃士である。室内に滑り込んだ銃士は、後ろ手に扉を閉めた。
「お待ちしておりました」
 娘はうやうやしく礼をした。
 銃士が息を飲む気配に気付き、娘は顔を上げた。
「まさか、君が……」
 どうやら銃士の方は、ここで会う者が自分の知人であるとは思いもよらなかったらしい。驚きの余り、目を見開いて絶句している。普段、冷静で余裕のある顔を崩さないこの銃士が動揺する様子は珍しい。

 娘は、扉を背に呆然と突っ立ている銃士の手を引いた。
「時間がありません。手早く済ませてしまいましょう」
 そう言って銃士を引き寄せると、娘は胸のリボンに手を掛けた。銃士が抵抗する間もなく、リボンははらりと解かれた。




 衣擦れの音。
 苦しげな喘ぎ声。
 もし聞き耳を立てている者がいれば、訳あり男女の逢い引きだと思うだろう。だが、あらかじめ宿の主人に頼んで人払いをしていたので、部屋の様子を気にする者は皆無だった。

「くっ……これ以上は無理だ……」
「何をおっしゃいますか。王妃様ならあと三分の一は締められますのに」
 薄暗い部屋で、二人の女は奮闘していた。

 鉄仮面の事件の後、功労者には褒美と長めの休暇が与えられた。ダルタニャンがガスコーニュへ帰郷したように、アラミスにも行くべき場所があった。婚約者の墓参りである。この時ばかりはアラミスではなくルネとして、この七年の間に起きた事を墓前に報告しなければならない。だが今のアラミスは独り住まいの銃士である。女物の服を持ち合わせていない。
 事情を知っているトレヴィルが、密かに取りはからってくれた。休暇の初日、この宿に必要な物が全て揃う手はずになっていた。ドレス、靴、化粧道具、香水、そして着付けを手伝う者。
 最初、コンスタンスの存在に気づいたアラミスはトレヴィルを恨んだ。わざわざ身近な者を呼びつけた真意が理解できなかったからである。
 しかしよくよく考えてみれば、コンスタンスはアンヌ王妃付きの衣装係であり、彼女の父ボナシューは仕立て屋であったから、トレヴィルの人選は適格だったと言える。それに、コンスタンスの口の堅さは定評がある。ダルタニャンの口から秘密が漏れ、いらぬ疑いを持たれる心配もなくなる。

 当初、コンスタンスに触れられたアラミスは身を固くした。だが、元々裕福な育ちだったから、次第に体に触れられることに違和感はなくなった。持ち込まれた衣装はどれも的確なサイズで、コンスタンスの働きには無駄がなく、アラミスはじっとしているだけで良かった。
 問題はコルセットである。胸を大きく、腰を細く見せるアレである。
「お手柔らかに頼むよ」
「ご安心ください。普段から鍛えてらっしゃるアラミス様なら大丈夫」
 最初は和やかに話をしていた二人だったが、程なくして状況は一変した。七年ぶりに身に付けるコルセットは想像以上の苦痛だった。キリキリと締め上げられたアラミスは、ギブアップと言わんばかりに目の前の姿見を叩いた。
 しかしコンスタンスは容赦がなかった。着付けに妥協する事は、王妃の衣装係としてのプライドが許さないのだ。締められるアラミスも苦しいが、締め上げるコンスタンスも苦しいのである。
「もっと息を吐き出して下さらないと」
「う、う……こんなに締め付けたら、いざと言うとき戦えないじゃないか」
「この格好で帯剣する気ですか?!」
 耳鳴りの向こうから、コンスタンスの呆れる声が聞こえた。
「くぅっ! これで充分だ。もう私は行く」
「銃士ともあろうお方が情けない。七年の間にお腹周りがたるんだのではありませんか?!」
「そ、それは言い過ぎ……ぐ!」
 コルセットの紐が力一杯引き締められ、アラミスは言葉が出なくなった。




 コンスタンスが納得した頃には、既に辺りは夕闇に包まれていた。準備が整い次第、馬車を呼ぶことになっていたのだが、旅立ちには遅すぎる。
 今夜は宿に泊まらざるを得ない。アラミスは付けたばかりのコルセットを、仇を払いのけるかのように脱ぎ捨てた。かつては自分も毎日こんな物を身につけていた事が、信じられなかった。
「ふう、やっとまともに息ができる……。コンスタンスも疲れただろう。今夜はもう夕食にしよう」
「そうですね」
と言いかけたコンスタンスは、はた、と何か思いついたようだった。
「そうだわ! 明日に備えて食事制限すれば、もっと楽に締められそうですね」
 コンスタンスの素晴らしい提案に、明朝の地獄を想像したアラミスは慄然と身震いするのだった。







あとがき

あれほど創作意欲がなかったのがうそのように、降ったように話が湧いてトントン拍子で出来てしまいました。筆がのるってこういうこと? いや、筆が滑ったと言うべきか。

アニメ終了後~映画の冒頭、アラミスの墓参りの間の出来事。あのドレスはどこから調達したんだ?という疑問に挑戦してみました(笑)(2005.06.11)
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Date:2005/06/11
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