きおくにないうみ ver.3

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□ 二次小説・短編 □

揺れる顔

第7話パラレル話。








揺れる顔



 襲撃は突然だった。
 ロシュフォールと大勢の護衛士に取り囲まれ、銃を突きつけられたアラミスは言いなりになるしかなかった。
 窓に目隠しを施した馬車に押し込められる。先日お忍びでパリを訪れたバッキンガム公爵を匿った件に関して、さんざん問い詰められたが、アラミスはしらを切り通した。
 連行されたのはバスチーユではなく、ロシュフォール伯爵邸の屋根裏だった。
 アラミスは、屋敷を貫く太い柱に、無惨にもぐるぐると縛り付けられた。怪力自慢のポルトスなら、縄を引きちぎる事ができたかもしれないが、残念ながらアラミスは非力であった。

 今になって、アラミスは護衛隊が来た時に抵抗しなかった事を後悔していた。
 よくよく考えてみれば、民家のひしめく町中で銃をぶっ放すことなどできるはずがない。初めから銃は脅しにすぎなかったのだ。
 正式な令状がない限り、いくら護衛隊でも強制連行は出来ない。もし騒ぎになれば、近所の誰かの耳に入り、いずれ仲間や隊長が手を尽くしてくれたはずだ。
 だが今回は、アラミスが連れ去られた事すら誰も知らない。救助の可能性は、ほぼゼロだ。

 執拗な責めにも関わらず口を割らないアラミスに、業を煮やしたロシュフォールが「服を脱がして、鞭で打て」と命じた。
 ロシュフォールの命令に、ジュサックは待ってましたとばかりに卑猥な笑みを浮かべた。舌なめずりが聞こえそうな下品極まりない口に、剣をぶち込んでやりたいとアラミスは思った。もちろん鞘なしで。

 恋人を死に追いやったとも言える、少女時代の軽率な言動を後悔して以来、口の堅さには自信がある。皮膚が裂けるまで鞭打たれても、耐えきってみせる。
 だが、服の下に隠した秘密を知られるわけにはいかない。拘束された者を鞭打つというだけで、これだけ歓喜する下衆のことだ。こちらが女と知れば、手口がエスカレートするのは明らかだ。入隊した時点で、あらゆる覚悟を決めてはいたが、進んで秘密を晒す気はさらさらない。

 いや、拷問より何より、アラミスにとって一番恐ろしいのは、銃士隊にいられなくなる事だ。亡き恋人フランソワの仇も、王子の行方も、手がかりは未だ見えない王家の裏側にあるというのに。
(こんな事で… こんな所で… 目的を果たせないまま、終わってしまうのか?)
 こうなったら、精一杯の抵抗を試みるまで──。
 アラミスは唯一自由になる足で、迫るジュサックを蹴り上げた。しなやかな足から繰り出された蹴りは、派手に相手を吹き飛ばしたが、致命傷には至らず、ジュサックは憎々しげに起き上がった。
 今度は用心深く近づくと、アラミスの襟元を乱暴に掴んだ。上質の布地で作られた上着は簡単には破けなかったが、振りほどこうとした時に、柔らかいレースの部分が裂けてしまった。
 どれほど抵抗しようとも、自由を奪われた状態ではたかが知れている。正体が明らかになるのは、時間の問題だ。
(くっ! どうすれば……)




 けたたましいごう音が鳴り響き、刹那、まばゆい光が差し込んだ。
 閃光が一瞬であれば、季節外れの落雷と思っただろう。だが、光は辺りを満たし続けた。
 ごう音と同時に天窓の窓枠が吹き飛び、アラミスに手をかけようとしていたジュサックの後頭部を直撃した。ジュサックは鞭を握りしめたまま、ずるずると倒れ、アラミスの足下に転がった。
 破壊され、四角い穴だけとなった窓辺に、圧倒的な光を背に一人の男が立っていた。
 正面から見上げたアラミスがかろうじて確認できたのは、男の影のみで、後は何も分からない。
 窓を背にしていたロシュフォールは振り向いた拍子に、もろに光を目に捕らえてしまった。思わず利き手を掲げて光を遮ろうとしたが、これが仇になった。
 窓辺の男は、無言のまま高みの窓から飛び下りた。床までゆうに2メートルはある。普通ならまともに着地できない高さだったが、真下にいたロシュフォールを具合よくクッションにする格好で見事に着地した。
 ロシュフォールは剣の柄に手をかける事すら出来ず、男の足に踏みつぶされ、鈍い音を立てて動かなくなった。
 三銃士より地味とはいえ、伯爵もジュサックもそれなりの剣豪である。しかし、おそらく何が起こったのか理解すらできずに、二人とも倒れ伏す事になった。

 一方アラミスは、いまだ光から顔を背けたままだったが、男が近付いて来る気配を感じ、体をこわばらせた。敵か味方か、判断しかねたのである。
 おもむろに、ふわりと体が自由になった。男が、柱とアラミスを括り付けたいましめを解いたのだ。
「あ…」
 突如自由になった体を制御できず、また、目が眩んでいたこともあり、アラミスは前のめりに倒れそうになったが、男の腕がアラミスを抱くように支えた。
「す、すまない」
 膝に力を込め、かろうじて踏ん張った。
 アラミスが最初に目にしたのは、葬服を思わせる色あせた紫色の上着だった。明るさに目が慣れた事もあり、アラミスは立ち上がりながら顔を上げ、男を見た。
 天窓から降り注ぐ光は、今も衰えていなかったが、室内に侵入した男は光を背にしていなかったので、姿形が露になっていた。

「あなたは……」

 顔を上げたアラミスが見た男は、派手な黄色い頭をしていた。髪の色ではない。頭部全体が、文字どおり、黄色に熟した大きなカボチャに覆われていたのだ。両目と、口とおぼしき部分にはギザギザと深い切れ込みがある。だが中身は真っ暗で、顔を判別する事はできない。

「…………」

不自然に大きな頭はゆらゆらと揺れ、今にも首から落ちてしまいそうだ。

「……………………」

 絶句するアラミスの前で、カボチャ頭はひときわ大きく後ろに反り返った後、今度は反動で前に倒れてきた。そのまま頭がもげてしまいそうな気がして、思わずアラミスは手を差し伸べ、頭を支えた。
 双方の顔が向き合う形となり、カボチャ頭がくぐもった声を発した。喋る事はできるらしい。
「大丈夫…ですか?」
 既にアラミスは混乱の極みにあったが、口を開いた男の声は、それまでの驚きを遥かに凌駕するものであった。
「その声…」
 信じられないといった面持ちで、アラミスはカボチャ男の滑稽な顔を見つめた。
「まさか… そんな……」
 アラミスのつぶやきは、カボチャ男の耳に届いていないらしく、彼は黙したまま遠くを見据えていた。
「もう……行かねば」
 カボチャ男は一方的にそう告げると、立ち上がった。
「お、お待ちください」
 アラミスは慌てて引き止めた。どうしても確かめなければならない。
「あなたのその声…。私の……亡くなった知人に似ている……」
 動揺しつつも、慎重に言葉を選び、アラミスは話した。
 だがアラミスの言葉に、男は何の反応も示さず、天窓へ一歩ずつ歩みを進めて行った。そして、窓の真下へたどり着くと、アラミスに背を向けたまま抑揚のない声で話した。
「私はあなたを知らない。自分が何者なのか、ここがどこなのかすら分からないのに、あなたの事を知っているはずがない」
「……では、ルネ…と言えば、何か思い出しませんか?」
 失神しているとは言え、ロシュフォールとジュサックの前で『ルネ』の名を出す事はためらわれた。だが、アラミスは平静を装いつつも、男の反応を引き出そうと必死だった。
 『ルネ』という言葉に、カボチャ男の頭が揺れた気がした。しかし、それは単に頭がアンバランスに傾いただけだったのかもしれない。
「…もうすぐ君の仲間がここにやってくる。私はもう行かねば」
 男が言い終わらないうちに、屋根裏部屋は再び強い光で満たされた。再び何も見えなくなった中で、アラミスはカボチャ男の最後の言葉を確かに聞いた。
「…漠然とした意識の中で、誰かの声に導かれたような気もする。もし私を呼び覚ましたのがあなたならば、いずれまた、まみえる事もあるでしょう」

(もしや、彼は……)
 アラミスの中の理性的な部分は、嘲笑しながら思う。馬鹿げた考えだ、と。あの日、フランソワは確かに死んだのだから。
(だけど、もしかしたら……?)
 長い間長い間封じ込めているものの、今も確かに心の核に存在するルネは望みを抱かずにいられなかった。それが、一縷の望みから生じた──限りなく都合の良い考えだと分かっていても。
(いずれまた、会えるのだろうか……本当に)




「おーい。アラミス、助けに来たぞー。……あれ?」
 カボチャ男が現れた天窓から、おなじみの顔がのぞいた。ダルタニャンとジャンである。
 どうやら、ジャンがロシュフォール達に連行される現場を見ていたらしく、ダルタニャンを連れて助けにきたのだ。
 だが、二人が屋根裏に到着した時には、既にロシュフォールとジュサックは床に倒れており、アラミスがぼんやりとたたずんでいた。
「まさか、アラミス一人で倒したの?」
「…まあ、な」
 気の抜けた、いかにも心ここに在らずといった返事だったが、ダルタニャンとジャンは意に介さなかったようだ。
「なーんだ。おいら、心配して損しちゃったよ」
 ひと騒動起こし損ねたダルタニャンとジャンが、つまらなそうに、だが安心したように、愚痴をこぼす。壊れた天窓からロープを垂らしてもらい、アラミスは外へ引き上げられた。
「いや違う。私は戦っていない」
「へ? じゃ、アトスかポルトスが先に?」
「天の助けがあった。信じられない事だけど、な」
「??」
 ダルタニャンとジャンが顔を見合わせる。
 アラミスは、それ以上詳しい事は語らず、赤く差す落日を一心に見つめていた。消えゆく光の向こうに、何かを探すように。
(いずれまた、まみえる事もあるでしょう……きっと……必ず……!)
 アラミスは自らに言い聞かせるように、男の言葉を心で繰り返し、ロシュフォール邸を後にした。







あとがき


書いた自分で言うのもなんですが、これまでに無く、むちゃくちゃな話です。すいません。
真面目な話を書きたいのか、おふざけに徹したいのか。(両方…かも)

『第7話で危機に陥るアラミス』の話が好きな方は多いと思いますが、大多数の方々が望む方向とは逆のベクトルで話が展開する辺り、私らしいと言うかなんと言うか。

10月ということで、カボチャ頭な男の話。最初の設定ではもっとまともな格好だったのですが、街でハロウィンの飾りを見ているうちにふと『カボチャ頭ってどうよ?』と思い、あれよあれよとこんな話になってしまいました。
話の中で『再会』を暗示するような事書いてますが、続き書いたら怒られちゃいます?
少なくとも2話分に相当する、詳細な設定があったりして……(2004.10.25)

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Date:2004/10/25
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