きおくにないうみ ver.3

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珠杉桂さま『共闘』

珠杉桂さまから頂いた小説です。



***


共闘




赤い血を噴出して倒れこんでいく男の断末魔の叫びが、やけに遠くから聞こえてくるようだった。


「さすがにお見事な腕前ね…銃士隊長殿…」
「…」
「陛下もさぞお喜びになると思うわ。真のフランスの支配者が誰であるかこの黒幕もよくわかったことでしょう…」
目の前の女はこの惨状にも眉筋一つ動かさず、その朱唇をほころばせた。血に濡れた剣がやけに重い。返り血で染まったマントの裾でぬぐってもぬぐっても軽くならない。    
「ここに長居は無用です。宮殿に戻りましょう」    
しかしまだ自分はまだ周囲の状況を把握する判断力とやらを、頭の半分では残しているようだ。それだけにすがりこの場を切り抜けるしかない。

「隊長、こちらは安全です」    
「うん」
つい先日まで同僚だった銃士達は、内心どう思っているかわからないが、銃士隊長へのとりあえずの敬意は払い、職務を忠実に遂行してくれている。隊長自らが一刀のもとに切り捨てた国王の愛人暗殺を企てた刺客の死体を黙々と片付け、そして宮殿の安全な部屋に導きいれる。これをすべて一人でやるにはさすがに荷が重かった。    
「ご苦労、ここまでくればもう大丈夫だろう、あとの処理が終わったら今日は解散してくれ」
「かしこまりました」    
その一連の動きを、銃士隊長が身を挺して守った女はおもしろそうに眺めていた。    
「もうすっかり部下も掌握なされたようですのね」    
「隊長が誰であろうと、彼らは国王陛下のために仕える銃士ですから」    
「アラミス…あなたがいなかったら銃士隊も解散してたかもしれないわ。それは陛下のためにならないこと。そして私も助かりました」
「あなたをお守りするのは陛下のご命令です」
ついと近寄ってきた女をそっけなく避ける。妖艶なダークグリーンの瞳がからみつくように迫ってくるが、たとえこの女がどれほど男に対して魅力的であろうとも、少なくとも自分にはなんの価値もない。それだけははっきりしている。あの男たちを斬ったのは断じてこの女のためではない。
「私もこれで失礼いたします。今宵はあまり派手に動かないほうがよろしいですよ」
「そう…ね…それではせめて、感謝の気持ちを込めて」
「…」
目の前にそそがれる葡萄色の液体をぼんやりと眺めていた。よく手入れのゆきとどいた白い手、磨きこまれた爪。それらすべてが計算されつくした美しさをもって動く。きっとそれはそれだけで男を誘っているのだろう。    
「さあ…どうぞ…毒なんか入っていないわよ」    
そういって彼女はその白い喉をみせつけるように液体を飲み干した。毒は入っていないだろう。おそらくは…今ここで自分を殺す意味はない。でも…なにやらの自白剤、媚薬が入っていないという保証はない。    
「私の忠誠は先ほどお見せしたと思いますが」    
「ずいぶんと用心深いこと」    
苦笑するとそれ以上強要することもなく、ミレディは傍のソファにしなだれかかった。    
「別にどういう気もないわ。ただ…もう少しここにいて欲しかっただけよ」    
「陛下がお待ちになっているのではありませんか?」     
これがこの女の手管なのだろう。もう行かなくては。ここにいてはまずい。まして自分には何重にも抱えている秘密がある。グラスを置いた。    
「…綺麗な手ね」    
「…」    
むりやり動かそうとした足がとまった。ふと胸をつくような言葉。    
「私を守ってくれた手。あれほど見事に剣を操る手が本当はこんなに綺麗だったのね。あんな風に守ってもらえるとは思っていなかったわ」    
「…」    
「楽なものね。守ってもらえるということは」    
「あなたに忠誠を捧げる騎士はこれからも沢山いると思いますよ」    
「そんなこと本気で思っているのかしら。アラミス」    
「国王陛下の愛妾をお守りするのも銃士隊の勤めですから」    
「でもあなたが一番に剣を捧げてくれたのね」    
そう…誰よりも早くあの女に剣を捧げた…もっとも保身に長けた銃士。そう囁かれているのを知っている。ちくちくと胸を刺す痛みは…常に自分を苛んできた。あの刺客を殺したことで自分はますますマンソン側についたとみなされるだろう。それは望むところなのだ。今のところ…。だけれども…。    
「女に興味はないの?」    
「時と場合によります」    
ひとたび求める証拠を掴んだら、私はあの刺客と同じ立場だ。むしろあの刺客は同志だったのだ。私は同志を殺したのだ。もしもあれが勇気ある自分の友人たちだったとしたら、私はどうすべきだったのだろう。それでもこの剣で屠れただろうか。そのことを考えると絶叫をあげたくなる。    
「今はその時ではない…と」    
「職務中ですので」    
「そう…ね…私もあなたに抱かれるなんてこれっぽっちも実感が沸かないわ。どういうことかしらね」    
「それは当然でしょう」    
「そうではないわ…あなたはもっと…こう…」    
つっとその爪が自分の頬をなぞる。いい加減にこの場を離れないとまずいのだ。もしも自分が本当に男だったとしたら、この女を抱いて真の目的をさらに奥深くに隠し通すこともできたかもしれないけれど…それは無理な相談なのだから。この女に自分の秘密がばれるのだけは願い下げたい。なのにどうして脚が動かないのだろう。なにかを期待しているわけではないはずなのに。    
「震える姿が可愛いわね」    
くすくすと喉声で笑うミレディに自分は怯えているのだろうか。思わず後ずさった。    
「わかったわ…」    
ついと身じまいを正してミレディはその瞳をまっすぐに自分に向けた。    
「殺したくないのなら…アトスとポルトスを逮捕しなさい」    
「え…」    
「…正式には明日…陛下より。でもそれであなたはこの宮殿を本当に自由に出入りできる」    
「…」    
「たとえどんな理由があろうと、私は守ってくれたことを忘れないわ」    
   
私はまた一つ裏切りに手を染める。    

「アトスとポルトスを…わかりました」    

おそらくはこの女も同じ。一連の企みを利用してなにかの目的を達成しようとしている。自分とはまったく違った方法で、でも自分と同じ匂いのするこの女を…しかし自分はそのときになればためらいなく殺すだろう。私は女だから…女に対する憐れみの情はないから。    
そう覚悟さえ決めておけば、この女ともう少しは共に闘えるかもしれない。   


***
 

珠杉桂さんのサイト、MARIAS in the roomの70000HITを踏んだ記念に書いて頂いた物語です。
何を隠そう、カウンタでキリ番を踏んだのは初体験でありまして。珠杉さんがアトアラ以外でもOKとの事でしたので、ドキドキしながら考えたテーマが「四銃士(誰か一人でも)と共闘(手助け)するミレディー」でした。
言葉の端々からうかがえる心理描写が見事です。アラミスとミレディーの駆け引き、腹の探り合い。やはりミレディーの方が一枚上手…かな?

珠杉さま、本当に有り難うございました!
(2005.03.07)
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Date:2005/03/07
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