きおくにないうみ ver.3

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□ 二次小説・短編 □

Another World ~理想郷~ 1

アニメ終了後。微妙に原作?






 しんと静まり返った森の中。
 聞こえるのは、ロシナンテの規則正しい蹄の音だけだ。
 鉄仮面事件の解決後、ダルタニャンは銃士の肩書きを胸に、故郷ガスコーニュへ凱旋を果たした。
 今は、再びパリへ向かう旅路の途中である。

 馬上のダルタニャンは、漠然とした胸騒ぎを感じていた。
 何故か、故郷で過ごした記憶が乏しい。
 ガスコーニュは、確かに面白みに欠ける田舎に過ぎないが、懐かしい祖父母の元で過ごした数日を、ぼんやりとしか思い出せないのはどうしたことだろうか。

 ──祖父母と水入らずで何を話した?

 ──今朝の朝食のメニューは何だった?

 ──みんなに見せる為に連れて帰った象は、どうなった?

 …象を連れてパリを後にするまで、ダルタニャンの周りは、もっと生き生きとした時間が流れていた気がする。

 鮮やかな色彩。 駆け抜ける風。
 あの空気は、王都パリ特有のものだったのだろうか。

 …根拠のない事を、思い悩むなんて、いつもの自分らしくない。
 あと半日もしない内に、コンスタンスや三銃士のみんなに会えるだろう。そうすれば、こんな不安は──

 胸騒ぎを振り払うように、顔を上げてみて、ダルタニャンは周囲が一変している事に気付いた。いつの間にか、森一面が深い霧に覆われていたのだ。
「珍しいな…」
 昼間だと言うのに、まるで濃厚なミルクを焚き染めたかのような深さで、手元を見ることすら危うい。
 霧で有名なロンドンですら、こんなに深くはなかった。

 ダルタニャンは軽く舌打ちすると、ロシナンテから降りた。むやみに動かない方がいいと判断したからだ。手綱を持ち替え、手探りで道の端へ移動しようとした時だ。

 ──誰かがいる。

 霧の向こうから、こちらを見詰める視線を感じる。
 だが、相手に敵意があるのかないのか、ダルタニャンには判断しかねた。
「ロシナンテ、ここから動くんじゃないぞ」
 手の届く範囲にロシナンテがいては、万が一の時に剣を振り回せない。人語を解するらしい愛馬に、そっと語りかけると、ダルタニャンは道の真ん中に進み出た。遮る物がない場所に出るのは無防備かもしれないが、森の中で木の枝に邪魔されるよりマシだと思ったのだ。
 左手で剣の鞘を持ち、いつでも抜けるよう構えた。
「僕は銃士のダルタニャンだ。迷い人なら、パリへ送って行こう。賊なら…手出ししなければ見過ごそう。襲ってくるなら、相手になってやる。あんたは…何者だ。」

 白い空間に声がこだまする。
 返答はない。
 胸騒ぎと濃い霧が生み出した幻影だろうか。
 気配は気のせいで、最初から誰もいなかったのかもしれない。
 ふぅ…と息を吐き出し、ロシナンテの元へ戻ろうとした時、突如その者は動いた。立ちこめた霧がゆらぎ、一瞬、見えた姿は──

(まさか、鉄仮面…!?)
 マスクで顔を覆う者は大して珍しくもないが、鉄の仮面をかぶった奴など、そうはいない。
 ダルタニャンは剣を抜くと、鉄仮面の姿が見えた場所へ向かい走り出した。相手が本当にあの鉄仮面なら、見過ごす訳にいかない。
「どこだ!」
 目指す場所へ辿り着いたが、既に姿は見えない。

 振り向いた瞬間、漆黒のマントが垣間見えた。すかさず剣を振るったが、手応えはない。

 速い──!

 機敏さなら負けないダルタニャンであったが、何しろ視界が利かない。
 しかし、相手は悪条件をものともせず、ダルタニャンの視界ぎりぎりの範囲を動き回っている。
 ロシナンテなら、鋭い耳と鼻を駆使して、相手を捉える事ができるかもしれない。だが、頼みの綱は姿を見せないどころか、いななき一つ聞こえない。

「ロシナンテは来ないよ。ここからは退場してもらった」
 ダルタニャンの思考を読んだかのように、鉄仮面が声を出した。
「! ロシナンテに何をしたっ」
「何も。俺が望むまでは、この場に現れない。それだけだ」
 視界が利かない以上、音で相手の位置を推測するしかない。
 声の大きさからすると、鉄仮面は思ったより近くにいるようだ。とりあえず動きを封じたい。それには、訳の分からない戯れ言であろうと、何か喋らせなければ…
「お前の言う事なんか、ロシナンテが聞くものか! いい加減なはったりは…」
「ロシナンテだけではない。誰だって、何だって、俺の望み通りに、動いてくれる。俺は…いわば神のような存在だからだ」
 声の発信源へ駆ける。突如、白い空間が割れ、目の前に黒いマントをなびかせた鉄仮面が現れた。
 ダルタニャンは素早く腕を振ると、鉄仮面の首筋に剣を突き付けた。
「観念しろ、鉄仮面!」
 急所を狙った切っ先は、ぴくりとも動かない。
 息を弾ませながらも、とうとう鉄仮面の動きを封じた。
 だが、明らかに不利な立場でありながら、相手は少しも動じる気配を見せない。
「観念? 何を観念しろと言うのだ」
「何だと…」
「自分の手をよく見てみろ」
 警戒しつつ、自らの手元を見ると、確かに握っていたはずの剣が、跡形もなく消えていた。
 ダルタニャンは慌てて飛びすさった。

 何かがおかしい。

 鉄仮面は、クックック…と、のどの奥で笑っている。
 二人は、一歩も動かないまま、かろうじて相手の姿が見える距離で対峙した。



 白い霧が渦を巻く。
 湿気を帯びて、服も、トレードマークの前髪も重く感じる。こんな時だと言うのに、耳の奥が詰まったかのように、意識がぼうっとする。
 まるで頭の中にまで霧が入り込んでいるかのようだ。

 身じろぎ一つせず、鉄仮面が口を開いた。

「ボナシュー夫人は達者か?」

(──ボナシュー夫人? コンスタンスの母親なら、確かコンスタンスが小さい頃に亡くなったと…)

「違うな、ダルタニャン……そうか、お前は彼女の事をファーストネームで呼んでいたのだったな。…羨ましい限りだ」

(──ふざけるのは、よせ! コンスタンスは…ボナシューさんの娘だ!)

 否定しながらも、ダルタニャンは自身の言葉に、奇妙な虚しさを感じずにいられなかった。

「お前、不思議に思わないか?」

(──何を。)

「細い剣で丸太を切り裂き、鷲にぶら下がって滑空する…他にも色々あったが…どう考えたって無茶な話だ。それなのに、全ての物事が、お前に都合良く動いている。それは何故だ?」

(──何が言いたい?)

「…コンスタンスが人妻でなければ、ミレディーが俺に好意を抱いてくれたら、愛する人が生き延びてくれたら…これは俺の、叶わなかった願いだ。それに、アラミスが女だと?クックック…俺は、心の奥で、あの坊主にそんな願望を抱いていたのかな…」

(──意味のわからない話をするな。)

「分からないか?ダルタニャン。お前は…そしてここは、俺の理想郷なのだよ。俺が願い、焦がれる世界。納得できる友情を育みたい、銃士として誰もが認める活躍をしたい、全ての人に愛されたい。愛する人と結ばれたい。愛する人に…生きていて欲しいっ…」

(──やめろ! それ以上、何も言うな…!)

 ここに来てずっと感じていた不安感。それを増長させる鉄仮面の言葉。
 ダルタニャンは、思わず耳を塞いだ。
 しかし、鉄仮面の言葉は、構わず紡がれる。頭の中で、ますます大きく反響しながら。

「ここは、俺の願った通りの世界……お前の物語は…理想的な展開で幕を閉じた。悲しみも後悔もないままに」

(──お前は…誰なんだ……)

「俺は、お前自身。最初に描かれたダルタニャン。俺がいなければ、お前は生まれなかった」

 今や霧は、ダルタニャン自身の体さえ見えない程、濃くなっていた。だが、不思議な事に、鉄仮面の姿だけは、やけにはっきりと浮かび上がっている。

「お前と、お前を取り囲む事柄は、全て、俺の夢なのだよ……だからこそ、俺は…」

 鉄仮面は、おもむろに顔面を覆った冷たい仮面を外した。
 下から覗いたその顔は──

「お前の全てが、妬ましいのだ……入れ替わってしまいたくなるほどに…」

(──うそだ…こんな事があるはずない……!!)

 鉄仮面の素顔を見た瞬間、驚愕と共にダルタニャンの意識は弾けた。
 そして、その姿もろとも、深い霧に飲み込まれた。

 後に残った男は、押し込まれていた前髪をかきあげると、外したばかりの仮面を放った。
 鉄の仮面はごろんと転がり、霧の彼方へ消えた。

Next




あとがき

小説もどき第一号です。
うわ~暗い…。管理人の精神の歪みっぷりが、よく分かります。
いや、それ以前に「ワケワカラーン!」と、お叱りの声が聞こえてきそうです。
ああ…開設早々、見放されてしまうんじゃないかとおののきつつ、でもコンテンツの充実を図りたくて、突貫工事で書いてしまいました(構想はあったものの、書き始めて約2時間、1日寝かせてUP…そこ、石投げないように)
後でこっそり修正するかもしれません。
しかも、この話、続きがあります。頭の中ではちゃんと動いて、完結まで出来てるんですけど、はたして読みたい方いらっしゃるのでしょうか…(2003.11.12)
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Date:2003/11/12
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